第10話 白い狼

 二人はしばらくそのまま動けなかった。


 やがてユウがゆっくりと立ち上がり、アリィに手を差し伸べる。


「アリィ、立てるか?」


「は、はい、なんとか...」


「ここに居るのはマズいと思う。さっきのヤツが戻って来るかも知れない」


 するとアリィは、ブルっと身を震わせながらも急いで立ち上がった。


「移動しましょう」


「その前にこれを貰っておくか」


「ドラゴンの牙ですか?」


「うん、ゲームだとこういうの貴重なアイテムになったりするだろ?」


「確かに。武器や防具の素材になったりしますね」


 牙を懐に入れて二人は洞窟を出た。


「どっちに行きます?」


「まずは山を下りる方が良いと思うんだが、どっちの方に行くべきか...あ、そうだ!」


 ユウが何か閃いたようだ。


「アリィ、双眼鏡ってイメージ出来ないか?」


「あ、なるほど! やってみます!」


 するとあっさり出来た。


「やりました!」


「いいぞアリィ!」


「私の分も出しますね!」


 そして二人は双眼鏡を構えてそれぞれ違う方向に目を向けた。


「あっ! なんか見付けました!」


 しばらくしてアリィが何か発見したようだ。


「ホントか!? どれどれ...おぉっ! あれは! 町? いや村かな? とにかく人里があるようだ。行こう!」


「はいっ!」



◇◇◇



 人里を見付けてから約5時間後、二人はまだ山の中から抜け出せないでいた。


「はぁはぁ、す、すいません...ちょ、ちょっと休ませて...」


「あぁ、すまん、アリィ! 無理をさせ過ぎたな。少し休もう」


 二人は大きな木の根元に腰を下ろした。


「ふぅふぅ...はい、スポーツドリンクどうぞ」


「おっ! ありがとう! 異世界でペットボトルってのもオツなもんだな」


 軽口を叩きながらスポーツドリンクを一気飲みする。


「しかし、いつまで歩いても山から抜け出せませんね...」


「そうなんだよなぁ...双眼鏡で見た時はそれ程距離があるとは思えなかったんだが...」


「そろそろ暗くなります。今晩は野宿ですね」


「あぁ、そうだな。アリィの家を出せるような開けた場所を探そう」


「えぇ、そうしましょう」


 それからまたしばらく歩いて、やっと少し開けた場所を見付けた。


「この辺りにしようか。傾斜がほとんど無いし」


「いいですね。それじゃあ」


 アリィが家を出した。


「ふぅ、お疲れ様。今日は早く休もうか」


「そうですね...ん? 何か聞こえませんでした?」


 アリィが耳をそば立てる。


「言われてみれば...なんだろう? 泣き声?」


「向こうの方から聞こえます」


 アリィが指差す。


「...見て来よう。アリィはここに居て...あぁいや、一緒に行こう。いざとなったらバリヤで守るから」


「わ、分かりました」

 

 藪をかき分けて進むと、次第に「キュウキュウ」という泣き声が大きくなって来た。


「あ、見付けた! こ、これは!?」


「お、狼...でしょうか!?」


 そこには狩猟用の罠にハマった真っ白な狼らしき獣が横たわっていた。

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