第6話 メリルの憂鬱

 あれから時は過ぎ、私は15歳になった。


 今日は学園の入学式。王子様との出会いイベントがある。私は緊張しながらも歩を進めた。そして...


 居た! 金髪に赤い瞳。周り中にキラキラオーラを振り撒いている、スチル通り完璧な王子様だ。隣には婚約者の悪役令嬢も居る。こちらもキラキラオーラ全開の凄い美少女だ。この二人が並ぶと絵になる。まさに芸術品のようだ。そこでふと思った。


 こんなお似合いの二人の仲を引き裂く私の方が悪役じゃね?


 乙女ゲームに夢中だった時は気付かなかった。攻略対象を落とすことに夢中だった。転生してみて初めて分かった。ゲームじゃない現実で人の男に手を出す、それも何人も同時に、いい男ばかり手当たり次第に、そんな女はなんと呼ばれるか、


 間違いなくビッチと呼ばれるだろう。


 私は今更ながら感じた悪寒に身を震わせた。あんな恥知らずな真似はゲームの中だから、疑似恋愛だから出来ることであって、現実じゃとてもじゃないが出来ない。というか、まともな神経の持ち主ならまずやらないだろう。


 そう思った私は、ゲームのシナリオ通りに動くのを止めることにした。二人の邪魔をしないよう、こっそりと隠れるように過ごしていれば、何も起きないはずだ。まずはこの出会いイベント自体を失くす。そう決意し、二人から距離を取った。これだけ離れていれば大丈夫...なはずだった。


 甘かった...


 ゲームの強制力を甘くみていた。私の体は自らの意志に反して、まるで磁石に引き付けられる砂鉄のように、王子様へ一直線に向かって行った。


 怖かった。自分の体が自分の物じゃないような気がしてとにかく怖かった。


 軽くぶつかるなんてもんじゃない。距離を取った分、スピードに乗った私の体は、まるでラグビーかアメフトのタックルでもするかのような勢いで王子様に迫る。


 終わった...


 これはヘタしなくても王子様の暗殺犯だと思われるだろう。捕まって処刑まっしぐらパターン。二度目の人生も短かった...私は諦観して目を閉じた。


 ズッシャアッ!


 気付いた時、私は地面に寝転がっていた。どうやらスライディングしていたようだ。振り向くと王子様がビックリした顔でこっちを見ている。


 良かった...


 王子様が避けてくれたのか、ぶつからなかったようだ。私はあちこち擦りむいて痛む体を無理矢理動かし、一目散にその場を後にした。



◆◆◆



 出会いイベントが潰れたからか、それ以降、私の体がゲームの強制力に操られることはなかった。だが安心出来ない私は、あの二人に極力近付かないよう注意しながら過ごしていた。一先ずは平穏な日常を謳歌する...


「あんた、平民のクセに生意気なのよ!」


「ちょっと可愛いからっていい気になってんじゃないわよ!」


 はずだったのに...生意気な態度を取ったこともなければ、いい気になってもいない。こんな低レベルな虐めに付き合ってられないので、早々に撃退する。あっさり終わった。他愛もない。さて帰るかと思ったら、


 バケツを持った女が立っていた。


 何事!? って思ってたら、その女はいきなり自分から水を被った。いや、ホントに何? 怖いんですけど! 何か変な儀式とかじゃないよね!? 変な女が去った後、誰かの笑い声がしたので見てみると...


 悪役令嬢が声を押し殺しながら腹を抱えて笑っていた。

 

 なんで!? あれだけ関わらないようにしてたのに! なんでそっちから絡んでくる!?


 私は頭を抱えたのだった。


 

 


 

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