完璧令嬢と完璧王子は常に退屈している

真理亜

第1話 ストレス解消

 華やかな雰囲気で始まった王宮主宰の舞踏会。会場は色とりどりに鮮やかな色彩のドレスを身に纏った貴婦人方とエスコートしている紳士達とで溢れ返っている。


 そんな中、主役の二人が遅れて登場する。王太子のレオナルドと婚約者のカレンだ。二人が会場入りした瞬間、会場中の視線が釘付けになる。

 

 公爵令嬢であるカレンは、豪奢な黄金の髪が肩のあたりで軽くウェーブを巻き、青い海を思わせる瞳は麗しく輝き、ピンっと通った鼻筋とピンクに色付いた小さめの唇、マーメイドラインの真っ赤なドレスを颯爽と着こなすプロポーションは完璧で、細く括れたウエスト、豊満なバスト、キュっと引き締まったヒップと、美の女神さえ嫉妬して裸足で逃げ出すような圧倒的な存在感を放っていた。


 対してレオナルドの方は、王族のみが身に付けることを許されている、白を基調にした、あちこちに金の刺繍が施された華麗な軍服を身に纏い、カレンと同じ鮮やかな金髪にルビーを思わせる赤い瞳、線は細いが筋肉で良く引き締まった体躯、彫刻のように整った顔立ちは一見すると冷たく感じるが、自分の瞳の色に合わせたドレスを身に纏った婚約者を優し気に見詰めて微笑んでいる様は、まさに絵に描いたような王子様であった。


 感嘆のため息が会場中に溢れる。二人の周りにはキラキラした光が舞っているように見える。嫉妬するのもバカらしいくらい、いっそ現実ではなく幻想なのではないかと思うくらい、それ程にお似合いの二人に、会場中は誰も声を発せず、ただただ見詰めるだけだった。


 楽団が音楽を奏でる。ダンスの始まりだ。ここでも主役は同然この二人。ダンスホールの真ん中で優雅に踊る二人を、会場中が遠巻きに眺めている。楽しそうに微笑みながら見詰め合い踊る二人は、


「退屈だわ...」


「全くだ...」


「今週末大丈夫でしょうね?」


「あぁ、問題無い」


「ストレス解消するわよ!」


「応っ!」


 こんな会話を交わしていた。それも器用に、ニコニコと笑いながら...



◇◇◇



 時は過ぎて週末、所変わってここは王都近くの森。


「ウォリヤァァァッッッ!」


「トゥオリァァァッッッ!」


 二人はストレス解消と称して冒険者活動の一環である魔獣狩りに勤しんでいた。ちなみにカレンは、ネコのように自由に出し入れ出来る鋭い爪で敵を切り裂き、レオナルドの方はグローブを嵌めた手で敵を殴るというスタイルだ。


 当然、敵の返り血を浴び体は血塗れになるので、冒険者達の間では『ブラッディ・ペア』と呼ばれ恐れられていた。ちなみに二人とも血避けのゴーグルを被っているので、正体はバレていない。


「フウッ、こんなもんかな」


「そうだな、良いストレス解消になった」


 二人の前には死屍累々たる魔獣の死体が転がっている。


「さて、アイテム袋に入れて帰るか」


 その時だった。どこからか情けない悲鳴が聞こえて来た。


「ヒィィィッ! お、お助け~!」


 どうやら二人の護衛として着いて来た影が魔獣に襲われてるらしい。


「仕方無いなぁ」


 ブツブツ呟きながらもカレンは、今まさに影の1人を食い殺そうとしている、身の丈3mは超えようかという熊の魔獣『グレートベア』をあっという間に切り裂く。


「か、カレン様、助かりました! ありがとうございます!」


「仲間を助けて頂き感謝申し上げます!」


 彼の仲間達も助けようとはしてたらしい。全く役に立たなかったようだが。


「あんた達、弱いんだから無理して連いて来なくていいのよ?」


「そ、そんなぁ~!」


「お~い、カレン~! そろそろ帰るぞ~!」


「ほ~い」


 泣いてる影達を残して、カレンとレオナルドは帰途に就いた。


 

 

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