第2話

 苦痛な8時間はいつものように変わりのない8時間だった。


 この苦痛を打破するために、いえいえ、しあわせな人生を送るための目標探しを初めていた。

 

 家に帰ると、車庫の道具置き場に置いたスズメの亡骸のところに行った。


 そっと手に取り家の前にあるプランターに埋め、ターボに「ありがとう」スズメに「ごめんなさい」と言って砂を慣らした。

 

 玄関に入って「ただいま」と言ったが、返事がなかったので、母はここにはいないのかと思った。

 

 奥から「あっ」と声にもならない声が聞こえてきたなぁと思った瞬間、母が引き戸から顔だけ出した。

 

 声にならない小さな声で、「ちょっとちょっと」いう感じで手招きして、私を奥の部屋へ来るよう誘導した。


 何事?

 良いこと?悪いこと?

 

 数秒の間に、私の頭はこれからくるであろう、幾つもの不安と歓喜の出来事に正常ではいられなかった。


 「何?」と訝っている私のことなどまるで気にしていない様子で、母はニコッと笑うとテーブルに並んだ干し芋の山に顔を向けた。


 母の実家は茨城。


 ちょくちょくこの干し芋と蕎麦粉、イナゴが送られてきていた。


 イナゴは極めて苦手。


 箱で送られてくるイナゴの脚取り作業のあとは、まるであの嫌な黒光リする生き物の脚があちこちに散らばっているようだった。


 その後、私は朝のターボのスズメのことをすっかり忘れて干し芋に夢中になっていた。


 そして、それが今日の夕飯だという事実を母に告げられ、さらに干し芋を食べることに。


 父のいない時はいつも手抜きをする母。


 私は特に食にはこだわらない。


 好きなものだったら、食べるものがあるのだったら、なんでもいい。


 そんなことで母とは利害関係が成立していた。


 お風呂に入り、部屋に戻ろうとすると、台所に電気が付いているに気がついた。

 

 覗いてみると、もうすぐ次の日になろうという時間なのに、母はまだ何かをやっていた。


 送られてきた蕎麦粉を嬉しそうに見ていた。


 「明日は手打ちそばだな」


 そんなことを思いながら、明日も仕事なのでもう寝ることにした。


 ターボのことがを思い出されたが、明日、母に話すことにした。


 朝、頭がボーッとして寝床でゴロゴロしていると「シュッツ、シュッツ、サー、サー」と何とも心地よい音が。


 「あ〜」と大きなあくびをすると、一気に布団をたたみ台所に行った。


 母はいきいきと蕎麦を打っていた。


 テーブルの上を粉だらけにして麺打ち棒を動かしている母に「おはよう」と声をかけた。


 母はひたすらテーブルにむかっていて「朝ごはん出来てるよ」と一言。


 母の姿に幸せを感じながら歯を磨いていると「これは本当に私の幸せなのか」

 

 何かが間違っている。

 

 







 





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猫の恩返し 風 凛子 @h527gk338x

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