第14話 ノートン子爵家は荒れていた(※ノートン子爵視点)

「もう嫌よぉ! 外に出たい! 出てもいいでしょう?!」


「落ち着きなさい、カサブランカ。まだひと月も経っていないのよ。伯爵家に嘘をついたのだから、この位は我慢して」


 本当に精神を病み始めているカサブランカと、それを窘めながらも看病のためと言って自身も家に引きこもらなければならない妻を見て、私はミモザを思う。


 この二人の外に向けるエネルギーはどこからくるのかと思う。着飾ること、流行を追いかけることを怠らず、いつも賛辞の真ん中にいなければ気が済まない。


 ミモザをこの家から逃すことで、逆に彼女たちを家に閉じ込めることに成功したが、毎日毎日ヒステリックに叫ばれて、私まで気が狂いそうだ。


 それでも、ミモザをずっと部屋に追いやっていたのが、私が稼いだ金を湯水のように使い続けたこの2人だと思えば、止められなかった私はこの状況を何事もなく耐えなければならない。


 今宝飾品を買ったところで、今ドレスを買ったところで、後で時代遅れになって着る暇はないだろう? と宥めすかしているお陰で、浪費も抑えられている。


 二人の食事や間食の量が増えているのは、ストレスからだろう。体型も些か崩れてきたように思う。まだ、着るドレスがあるだけマシだろう。


 ミモザが結婚した暁には、私は妻と離縁し、私と血縁に無いカサブランカをそのまま妻の実家に押し付ける気だ。


 これ以上は面倒を見切れないし、寂しい老後になるかもしれないが、私の弟の次男が後継に来てくれるという話も持ち上がっている。


 今までは妻とカサブランカの性質が身内に対しては非常に良くないからと交流は無かったが、そういう事なら、と文官として王宮に勤めている弟の次男が夫婦揃って越してきてくれることになっている。


 弟は私のことを何故か慕ってくれているが、私は娘を孤立させた弱い父親である。このヒステリックな日々の後には、キッパリと離縁しよう。


 その時だけは胸を張って、私がノートン家の家長であると示さねば、ミモザが恥をかく。


 内心、とても怖いと思っている。だが、伯爵家との密かな手紙のやりとりでは、ミモザは順調に淑女として完成されてきているという。家でも歓迎され、大事にされているらしい。


 ミモザ自身が気付かぬうちに伯爵家の嫁として相応しい人間になっているのなら、私が怯えていてはならない。


 私は今日も愛想笑いで二人を宥める。


 ミモザ、どうか幸せになってくれ。お前に素晴らしい嫁ぎ先が現れたのは、全てお前自身の行動があってこそだ。


 そしてそれが、私をも救ってくれた。私も、ミモザの一助になれるだろうか。


 とにかく今は、この家の中をなんとか平穏に収める事が大事だ。

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