第13話 ところでお茶会の話ですが

「難しい話は男性陣にまかせて、私たちは社交活動に勤しむわよ」


「へぁっ?! は、はい」


 先日言っていたお茶会の話だろう。やはりするのか、と思ったが、夫人は心配しないで、とお茶目に片目を瞑った。


「最初はね、私の本のファンの方を集めたお茶会にするつもりなの。だからミモザちゃんも話しやすいはずよ」


「それは、とっても素敵ですね……!」


 同じ作者のファンとの交流……! 夢みたいなお茶会だ。私でもこれならお喋りに混ざれそうだとほっと一安心した。


 今流行のドレスがどうとか、お店がどうとか、はっきり言って私にはまだまだ知識が足りない。それを申し訳なく思って、気遣われたかもしれない、と思って謝ると、夫人はそれを笑い飛ばした。


「何言ってるの? 私はよくこういうお茶会を開くのよ。お喋りが始まってしまえば、皆揃って関係ない話を教えてくれるのよぉ。女の社交の場はそんな場所よ、あとはうまく聞いてあげればいいの」


「お勉強になります……!」


「でも、今回はとびきり楽しくしたいわね。多くても10人くらいだから、テーブルは3つあればいいかしら。ねぇ、テーブルクロスに刺繍をしてくれない? 私の本をテーマにした」


 アレックス・シェリルの著作は10冊以上ある。どの本の刺繍にするかは悩みどころだが、私は刺繍をするのは好きだ。


「どの本がいいでしょう? シリーズものはありませんよね」


「そうねぇ……『白薔薇の庭で』と『ある劇作家の憂鬱』と『星の洋燈屋』でどうかしら? それぞれテーマがしっかりしていて意図がわかりやすいと思うのよねぇ」


「いいですね……! 私、頑張って刺繍します! 2週間ほどお時間を貰っても?」


「もちろんよ。お茶会はお茶会、淑女教育の時間も大事よ、他の準備は私がするから、テーブルクロスをお願いね。後でお茶会の企画書を見せてあげるから、それを見ながらお勉強しましょうね」


「はいっ! わ、私、社交がこんなに楽しみなのは初めてです……!」


 私の高揚した頰に、夫人は柔らかに微笑みかけた。


 相手方の予定もあるから3週間後に開催として、私は午前中を社交の練習に(伯爵や夫人やパーシヴァル様とのお茶と会話も練習に入る)、午後からは日が落ちるまで刺繍に費やした。


 何度も読み込んだ本がテーマなので、気持ちよく進んでいく。テーブルクロスなんて大物には初めて取り組んだが、中々に悪くない出来な気がした。


 そして2週間後、出来上がったものを夫人に見せたらお世辞ではない驚嘆の声をあげられた。


「すごいわ! ミモザちゃんは本当に刺繍が上手ね、欲しがられたらどうしましょう。私もお金を払ってでももっと色んな刺繍をして欲しいわ」


 そう言って、夫人はハッとした。


「そうよ! ミモザちゃんは刺繍で社交界に華を咲かせましょう!」


「え……?」


 ちょっと何を言われているのか、分からなかった。

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