23 【パラディン】の決意(※『三日月の爪』サイド)

「はぁ!」


 気合と共に一刀両断された竜種のハーフアンデッドを、素早くハンナが燃やし尽くす。


 【パラディン】……聖騎士であるグルガンは、エンチャントを必要とせずにただ斬るだけで聖属性が斬撃に乗る。


 前衛の物理攻撃役として、このハーフアンデッドだらけのダンジョンでは無類の強さを発揮していた。


 ベンが集めた魔獣を斬って、そこを【上級僧侶】のリリーシアが浄化するか、【黒魔術師】のハンナが炎属性の魔法で焼き尽くす。数の不利はあっても、今は複雑な戦況になれば声掛けもするし、単調な敵ならば声掛けなしで自分が何をすべきか、を『三日月の爪』は理解できるようになっていた。


 ダンジョンに潜って3日、もう5つは階層を降りている。B級ダンジョンと聞いていたから、長く見積もっても残り半分だろう。


「その先の小部屋が水場があるぞい。罠も無いしそこで休むか」

「はい、バリアン老師」

「魔力も少し吸えそうですね」

「そうね、ダンジョンの水はそこが有難いわ。持って帰れないのが残念」

「……ただの水になるからな」


 ダンジョンの水場は魔力や体力の回復を促進する効果がある。そこら辺の水源よりも綺麗で、祝福された水と言ってもいいだろう。


 とはいえ、ダンジョンから出た途端にただの水に変わってしまう。一説では魔力で出来ているというダンジョンの中でだけ役に立つ水場であるし、それならばダンジョンから離れればただの水になるのも納得だ。


 皆がドラコニクスを進めてバリアンの示した小部屋に向かう中、グルガンが剣を眺めて考え込んでいた。


 暫く敵は湧いてこないから誰も止めなかったが、グルガンは、剣を眺めながら最初にサンドイッチを齧ったあの日のように思いを巡らせていた。


(ガイウス……お前がいたから、俺達はここまで強くなった。何も見えていなかった……、もう街を去ったお前は、どこでも重宝されてるだろうけど……。このダンジョンをクリアして、『三日月の爪』がまたS級のパーティとして名声を手に入れたら……、お前は、戻ってきてくれるだろうか)


 他の面子にはまだ言えない。まだ、自分だけがその事に気付いているとグルガンは思っている。


 ガイウスのやっていた超人的な家事仕事と事務作業、アイテム処理、買い物から何まで、バリアン指導の元でようやく『三日月の爪』は常識的なラインにきた。その分、当然鍛錬の時間は減ったが、これまでが異常だったのだと理解できる。


 グルガンたちがまだ20歳前後で上級職まで上り詰める事が出来たのは、全ての雑事を忘れて鍛錬に専念できたからだ。いや、恋愛もしていたが、ガイウスは恋愛する暇もなかっただろう、というのはバリアンの指導が始まってから理解できた。


 そんな中で、邪魔だから、とガイウスに対して思い、感じ、表向き申し訳なさそうに金で片を付けたけれど、ガイウスがいなければグルガンの剣はこのダンジョンで猛威を振るう事は無かっただろう。


 やっと、心の底から、グルガンは『ガイウスに対して恥ずかしい』と思っていた。自分たちは火力の面では圧倒していただろう。だけれど、ガイウスが居なければその火力も役に立たない程、ガイウスに依存しきっていた。


 野営中に装備を解くなんて確かに馬鹿のやる事だ。バリアンが改めて叱りつけてくれなければ、依頼を受けても帰ってくることすらできなかっただろう。それどころか、回復薬の使い方すら危うかった。


 いろんなものの積み重ねでここに立っている。ガイウスを切ったのは自分たちなのに、グルガンは後悔よりも、今の恥ずかしくない自分たちを見て欲しいという気持ちが強かった。


 ――もう一度、というのは贅沢な願いだ。だから、せめて、このダンジョンをクリアして、【パラディン】グルガンの、『三日月の爪』の名前をどこかで聞いて欲しいと願う。


 そして見知らぬ酒場で「あいつらと一緒に冒険してたんだ」と自慢に思ってくれればいいと思う。


 グルガンはそっと剣を鞘に戻して皆を追いかけた。今は、このダンジョンをクリアする事。まずはそこから始めて、ガイウスが自慢できる元・仲間として名を上げたい。


「グルガン~、おいてくよ!」

「今行く!」


 ハンナの声に、グルガンはドラコニクスの脚を早めて今日の休む小部屋に向って行った。

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