22 対ハーフアンデッド戦(※ガイウスサイド)
「ハーフアンデッドの厄介なところは、外側はアンデッド属性じゃないって所だ。で、有利なのは、内側がアンデッドだから斬り込めさえすれば聖属性の大きなダメージが入る」
「でも、スクロールの数は有限ですよね? そんなにたくさん買ってきてませんし……」
「魔法のスクロールには2種類の使い方がある。まぁ1種類は裏技というか、【アイテム師】の『鑑定』ありきであんまり普及してないんだけど……」
「ど、どんな使い方なんです?!」
ドラコニクスをゆっくりと歩かせながら、ガイウスは聖属性魔法のスクロールを一つ取り出した。巻物状になっているそれには、1枚につき1回の魔法が放てるように籠められている。
「このスクロールを剣に巻き付けて発動してみてくれ。大丈夫、無駄撃ちにはならないから」
「は、はい」
戸惑いながらスクロールを受け取ったミリアは、一度ドラコニクスの歩を止めて剣にスクロールを巻きつけ、普通にスクロールを使うように手を当てて魔力を流し込んだ。
魔法のスクロールは一回分の魔法が籠められているが、それはあくまで魔法を籠めているだけであって、魔力は当然術者の物を使わなければいけない。
「そのまま魔力を籠め続けて……そう、もう少し……」
「なんだか……剣が、発光している……?」
「よし、もういいよ。スクロールも役目を終えた。『聖属性のエンチャント』された剣の完成だ」
「エンチャント?! これ、エンチャントに使えるんですか?!」
「そうそう。まぁ【僧侶】か【魔法使い】がエンチャントを使えるなら特に必要ないんだけど、誰でもスキルや魔法の取捨選択はするだろう? エンチャントは最初は重宝されるけど、だんだん火力や他の補助魔法の方が大事になってくるから、こうしてスクロールで補ったりする」
ただ、もうその段階にきている僧侶や魔法使いは聖属性の攻撃魔法も優先して取ってあるから、あまり出番は無いんだけど、ともガイウスは付け加えた。
人の記憶力には限界がある。最初に覚えていたとしても、使わなくなったら忘れていく。『三日月の爪』が日常生活に支障を来したように、なんでもそうだ。スキルや魔法に限った話ではない。
そこを補う何か……『三日月の爪』にとっては元凶でもあるが、ガイウスがいれば……問題なく過ごすことができる。自ら切り離したうえに代案が無かった様子なのは、ガイウスも頭を抱えてしまったものだが、今はバリアンが『三日月の爪』についている。何も心配ないだろう。
そして、魔法を取捨選択したとしても、アイテムという形で補うことができる。なんでも完璧にできる必要はない、とガイウスは思っているし、だからこそ自分は『できることが多い』【アイテム師】に甘んじて火力には一切手を付けなかった。
火力が高い戦士も、防御力が高い盾役も、補助魔法も攻撃魔法も、ガイウスには自分の性に合わないと感じた。【アイテム師】ならばどこでも潰しがきく、という思惑もあった。一人で生きるという無意識の表れだが、ミリアとの冒険は誰かと生きていくという気持ちを『三日月の爪』に加入した時のように思い出させてくれる。
聖属性のエンチャントに感動しているミリアから空のスクロールを受け取ってインベントリにしまった所で、新たな敵が地面から生えて来た。
今度はウェアウルフのようだが、目が濁っている。やはりハーフアンデッドだ。
「ミリア、今度は剣がそのまま通る! 支援するから好きに斬り込め!」
「はい!」
インベントリは表示したまま、ガイウスは後方に下がると、自分の魔法弓にも聖属性のスクロールを当てて魔力を吸わせた。魔法矢が通る相手だ。ウェアウルフの数が多いため、ミリアの動き、敵の動きを観察して後方に構えているウェアウルフに当たるよう『即時判断』と『投鏑』を駆使して跳弾を連続で放った。
ミリアの剣筋は観察して覚えた。低い姿勢からの斬り込みと、その姿勢と走った勢いを利用した跳躍による翻弄、そして杖を使わない低級魔法で動きを止める。
アンデッド系には氷魔法の効きが弱い。なので、ミリアは低姿勢のまま走り寄りつつ聖属性エンチャントの剣から繰り出す斬撃波のスキルでウェアウルフの脚を狙う。さらに、近距離に迫った所で的確に『敵の動きを止める』事に終始した。
後方のウェアウルフにはガイウスの聖属性矢による跳弾が利いている。足止めに何発も撃ってくれている間に、ミリアは一度後ろに下がるように素早く宙返りをし、剣を納めて杖を構えた。
【魔法剣士】は本来魔法的要素を剣技に組み合わせて使うのだが、今はそのスキルよりも範囲魔法の方が効果が高い。前衛も後衛も足止めができたならばなおさらだ。
そしてここはダンジョン。洞窟と違って火炎系の魔法で酸素が足りなくなる事はない。
「《ファイアストーム》!」
中級魔法だが、アンデッド系には聖属性と炎属性がよく効く。ウェアウルフの素材は目的ではないので、一気に燃やし尽くすために、ミリアは極太の火柱をウェアウルフたちにお見舞いした。
炎の熱気で熱波がガイウスにまで届く。聖属性攻撃で足止めをしたうえで(通常攻撃のみではアンデッドの場合気にせず動いてしまう)、ここまで徹底的に燃やし尽くせば殲滅できただろう。
火柱はやがて骨まで灰塵に帰すまで燃やし尽くして、ゆっくりと消えていった。素材は残らなかったが、焦げたダンジョンの床の上に魔法石がコツン、コツン、と落ちて来る。
ダンジョンの魔獣はダンジョンから生まれる。こうして魔力の塊である魔法石が落ちる事も稀にある。
「やったな、ミリア」
「はい! 聖属性のエンチャントはどの位効果があるんでしょう?」
「籠めた魔力にもよるけど、あと2時間は持ちそうだ。いいスクロールを買っておいてよかった」
「なら、今日中に次の階層の道くらいは見つけられそうですね」
「だな。魔法石は預かっておくよ、後でギルドに持って行ってくれ」
「はい!」
魔法石は、火付け石などの簡易な魔導具から、複雑な魔導具の動力源になったり、杖や剣などの武器に使用して属性を与えたりもする。魔法弓も魔導具の一種だ。ガイウスが使っているのは無属性の魔法弓だが、こちらも存分に魔力を持って行かせたので同じくらいはエンチャントが切れることはないだろう。
ハーフアンデッド対策にもまだまだ魔法のスクロールは残っている。この調子で進んでいけばいいだろう、と順調な滑り出しでガイウスたちはダンジョンの奥へと進んで行った。
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