第14話

僕の部屋に避難して来た…なかなか疲れる展開が多かったのか、僕は少しグッタリしていた。が、有未さんはそうでもなかった。


「しまった!?お母様に名前を言い忘れた!!?」


面倒くさいので、慌てて止めた!!


「有未さん!いいの!いいの!!もう終わったから!?」


何故か興奮している有未さんを落ち着かせていたら、更に疲労が溜まってしまった…

そんな時、ふと頭を過ったのは有未さんの「苗字」だった。大して長い付き合いでもないが、言われてみれば有未さんの苗字を僕は知らない。


「そういえば。有未さんの苗字って何て言うの??」

「あれ?言わなかったけ?阿南(あなん)だよ!!」

「へぇ〜!変わった苗字だよね?」

「この辺じゃあんまりいないかもね☆」


この時、何で有未さんの苗字が知りたかったのか僕には分からなかったのだが、何故か知りたかったのだ。たぶん、さっきの滅茶苦茶な日本語に充てられたせいか、僕まで頭がバカになっているのだろう。


「コンコン」


ドアをノックする音と共に、もう1人のバカが登場した…母さんだ。


「彼女ちゃん有名店のケーキ食べて☆」

「おおぉっ!?お母様それは!?幻の!!」


僕にはどんなケーキか理解出来ていなかったが、有未さんは眼を輝かせて見つめている…


「お目が高いわね!ビンゴよ☆」

「ありがとうございます…へぇへぇ〜」


母さんと有未さんの漫才を観ている気分である。僕は呆れて何も言えなかったが、何故かこの短時間で意気投合していたのだ!?


「そういえば、さっきはごめんなさいね。お名前聞きそびれてしまって。何て呼んだらいいかしら?」

「これは失礼しましたお母様!?阿南有未と申します!!」

「阿南…珍しい苗字ね。他県からお引越しされてきたのかしら?」

「いえ。産まれた時からこの街に住んでます☆」


この話をしてから、母さんは明らかに様子がおかしかった。さっきまでの有未さんに対する興味津々な態度とは打って変わって…


「そっそうなのねぇ。ウチのバカとよろしくね…」


そう言って、母さんは部屋を出て行った。

有未さんが何か悪い事をした訳では無く、ただ苗字を教えただけで、あんなに態度が変わるのも変だと感じた。有未さんに悪い事したと思った僕は謝った。


「ごめんね有未さん…なんか素行の悪い母親でさ。」

「え?なにが??」


母さんの態度が悪くなった事に、全く気付いていなかったのか!?


「なんかごめんね。優希君…」


違う!?そうじゃない…有未さんは僕に嫌な思いをさせまいと気を遣ってくれてたんじゃないか!?何て優しい空気の読める娘なんだ本当…泣


「優希君のケーキも食べちゃった☆」

「いいYo〜〜…」


こうして波乱の1日が終わった。

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