2章2話 最高級のテント

「結構、大きいんだな」


 説明書通り、袋から取り出して魔力を流したら広がって大きくなってくれた。今いる空間の半分を占めているから……縦横に五十メートルはあるのかな。ただ、場所によってサイズは変わるらしいから大きいのはここに設置したからだろう。


「これは予想以上に広いな」


 玄関だけで靴が何個、置けるんだって広さだし、何よりも通路の先に見える部屋が……いや、それは中に入ってからでいいか。


 靴を脱いでスリッパに履き替える。

 よくよく考えてみたらこの行動って異世界でもそうなのかな。家の中で靴を脱ぐのってアメリカとかなら普通じゃないんじゃなかったっけ。まぁ、詳しい知識は無いからどうなのかは知らないけどさ。


 中に入ったら異世界らしさが減った。

 フカフカのカーペットや大きなテーブルとかは王城にも無かったくらい高品質だ。それにたくさんの部屋が四方にあるから……見た目と中の広さが比例していなさ過ぎる。


 人が二十人はいても困らない広さの居間。

 その周囲にある十個程の扉、後は収納庫っぽい一メートルはある四角い扉が真ん中にある。あそこら辺もちょっとだけ気になるな。……本当に出した俺ですらビックリするような魔道具だよ。


 頭を強く掻いて近くの扉を開けた。

 言わずもがな、中は他と同じく豪勢だ。高いホテルの一室と言われても疑わないな。一応、すぐ横に部屋が付いていてトイレと風呂の二つが合わさった場所がある。ただ、ビジネスホテルとかとは違って臭いとかは消す事ができるらしいし合わさっても問題は無い。それに蛇口を捻ったら水が出たから問題無く使えそうだな。


 そのまま他の部屋の扉も開いてみる。

 他も同じように寝室みたいだ。となると、四方の部屋は全て休むためだけの部屋ってことだろうね。でもさ、キッチンとかは見当たらないんだよなぁ。ここまで豪勢なのに食事は外で作れとかはさすがにないと思うんだけど……それは追々でいいか。


 まずは壁に付いている八つのボタンか。

 適当に押してみて確認してみる。まずは右上から順に押していって……ああ、右側四つは居間の電気に繋がっているみたいだ。それなら左側を上から押してみてっと。


 おお、左上を押したら階段が降りてきた。

 広い居間の真ん中だけ空いていたのもこれが理由かな。もしかしてだけど上に行ってみたら俺の求めているものがあるのかもしれない。階段を上ってみて奥の場所を見る。……上がってみたけど明かりがついていないからよく分からない。壁に手を当てて見たけどボタンは無さそうだったし他の三つが上の電気に繋がっていたのかもしれないな。


 すぐに下がってボタンを押してみる。

 当たりか、少し暗めの明かりがついたから上がってみる。ちょっとだけ長い通路があってそのまま進むと部屋がある。うんうん、これはものすごく良い魔道具だな。


 ここは食卓みたいな場所だろう。

 一つ目に広めの部屋、と言っても居間とは違ってテーブルと椅子があるだけだけどね。そして中に入ったら分かるけど横には大きなキッチンがある。


 それもただのキッチンでは無さそうだ。

 まずもって異世界らしさのあるキッチンではないな。どちらかと言うと日本にあるような普通のキッチンだ。IHみたいなコンロや水道が付いていて普通に料理が出来そう。コンロとかの下にある場所には鍋とかも有ったから洗えば今すぐに使えそうだね。


 それにこれだけで済まないのがすごい。

 その後ろにある幾つもの家具。冷蔵庫とかレンジとか食器棚とか……話し出したらキリがない程に色々なものがある。ってか、これ一つで生きていくことは可能なんじゃないだろうか。ここがあれば普通に家は要らないよな。だって、日本の便利な道具が使える空間と一々、魔石とかを砕いて扱う魔道具……どちらを使いたいかってなれば一目瞭然だろうし。


 もしかして何かしらの制約があるのか。

 生活魔法は……中からでも普通に使える。冷蔵庫とかが使えない……は全然ない。ってか、中に色々な食材が入っているし見ただけで分かるくらいに新鮮そのものだ。野菜室には専用の米を入れる場所もあるくらいだし……関係無さそうだね。


 後は中にいる間は俺の魔力が減るとかか。

 いやいや、それも全然ないな。ステータスを見たけど反対に大幅に回復していたし。ポーションを飲んだ事を踏まえても回復力がおかしいからテントの能力の一つだろう。


 となると、本当にデメリット無しで使えるって事か。って事は、まず間違いなくテントのレアリティは金だろうね。本気で恐れ戦いてしまう道具だな。……同じ金レアリティだった指輪とローブは確かにチートアイテムだったもんな。よくよく考えてみればそれだけの物なのか。


「本当に幸運ってすごいんだな。……いや、これを手に入れられる可能性のある固有スキルのガチャがすごいのか」


 とりあえず説明書を読み込んでおいた。

 それで分かった事だけど、まず中の電気とかは室内にいる人達が寝ている間に魔力を吸って、起きている時に使われるみたいだ。消費の時も少ないから一人で暮らしていても気付かないくらいの魔力量でいいみたい。まぁ、そこは使っている間に実感出来るだろう。


 そして二階に風呂があるらしい。

 そもそもダイニングとかの電気を付ける場所が壁にあったみたい。そこを確認してみたら分かったけどボタンが一つ多いんだよね。つまり、ここを押してみると……。


 階段を上ってすぐの通路の横に扉が出来た。

 中は風呂というよりは銭湯に近いかな。たくさんの人が着替えられそうな空間と鏡の張られた壁、そして髪を乾かす空間……その奥には横開きの扉がある。中を見たけど正しく銭湯っていう感じだね。しっかりと男湯と女湯で分けられているし。まぁ、使うためには火と水の魔石が一つずつボタンの下に入れる必要があるらしいけど。


 まぁ、一人の時はシャワー室でいいか。

 説明書が正しいのなら冷蔵庫の中とか、風呂場のお湯とかも生活魔法がかけられているらしくて腐ったり汚くなったりとかしないらしいし。ボタンを押して扉とかを隠すのも使わない間の魔力消費を極力、減らすためらしいからな。ここで湯を張ったら微小とはいえ無駄な魔力を使う事になる。そういう事がちょっと気になるんだよね。もしかしたら俺はA型なのかもしれない。


 確認は出来たから次は何をしようか。

 うーん……ウルを待っておきたいな。帰ってき次第、風呂を入れて二人で入るのも悪くない。その前に肉とかを焼いて一緒に食べるか。……どれをとっても悪くないな。転移したての時にウルに食べさせたい肉を手に入れていたからね。


 と、嘶きが聞こえたから帰ってきたのだろう。

 ウルがアレだけの声を出すという事は……驚いているんじゃないかな。匂いから俺が中に入っているのは分かっているだろうし。


「ワフワフッ!」

「おー、よしよし」


 うんうん、喜んでいるらしい。

 スキルのおかげか、「主ッ! 主ッ!」って聞こえたからね。ただ、血とかで汚れて固まった毛では楽しむ事ができない。可愛いから良いが……それでもこれは俺の従魔として頂けないなぁ。


「洗浄」

「ア……フゥーンッ!」


 ……なぜにそんな顔をしているんだ。

 少しだけ艶かしい声を出していたし。何だ何だ、そんなに気持ち良かったのか。……尻尾が目で見て分かるくらい強く左右に振られているし喜んでいるのは間違いない。それにモフモフが強くなったからやって正解だった。


「さて、中に入ろうか。ここだと休めないだろ」

「グルゥ!」


 うーん、ウルは本当に可愛いな。

 そう言えば……ウルのステータスって見ていなかったな。今のうちに見ておくか。ステータスの欄のウルの名前をタップしてっと。




 ______________________

 名前 ウル

 種族 ブラックウルフ(変異種)

 性別 雌

 レベル 16

 HP 251/865

 MP 155/774

 固有スキル

【疾走】

 スキル

【自然治癒1】

 魔法

【影3】【黒4】

 ______________________




 おお、これは強いな。

 レベルが上がっているのは俺がいない間も戦闘をしていたからかな。詳しい数値は分からないけど俺のステータスが跳ね上がったくらいだ。低いって事は間違いなく無い。


 って事で、ウルと一緒に風呂でも入るか。

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