2章 一人の冒険者(仮)

2章1話 小さな焦り

「はぁっ……!」


 体が痛い……寝汗も酷いな。

 昨日は……あれ……何をしていたんだっけ。ヤバいな、記憶の一部が飛んでいる。確か新島と戦った後に逃げられて……って、待てよ。今更だけどここってどこだ。


 暗い洞窟のような空間。

 それ以外に与えられた情報が無い。……空気感からして俺達が鍛錬のために行っていたダンジョンに似ているが確証が無いな。仮にダンジョンなら魔物が近くにいないのも分からないし……。


 まぁ、最悪を想定しよう。

 普通の洞窟と考えるよりはダンジョンと考えた方が最悪な事態にも対処できる。魔物が近くにいないのは幸運のおかげだとすれば……ダンジョン内部だとしてもおかしくは無いからね。


 とはいえ、俺が意識を失う前までは森の中にいたはずだ。という事は、勇者の転移に巻き込まれて飛ばされたのか。もしくは傷を負いながらもウルが俺を安全な場所まで運んでくれたとかも有り得そうだ。まぁ、そこら辺はどうでもいい。


 とりあえず……どうしようか。

 一先ず、考えるべきなのは今の状況の確認か。ステータスは……。




 ____________________

 名前 ショウ(仮)

 職業 召喚士

 年齢 17歳

 レベル 8

 HP 188/856

 MP 240/675

 物攻 D

 物防 D

 魔攻 D

 魔防 D

 速度 D

 幸運 SSS

 固有スキル

【ガチャ】【固形化】【熟練度上昇】

 スキル

【短剣術4】【自然治癒6】【毒操作2】

 魔法

【刻印】【風4】

 耐性

【毒3】

 従魔

【ウルLV14】

 加護

 ミカエルの加護

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 うん……ものすごく成長しているな。

 って、そこじゃない。今、確認すべきなのはHPとMPの部分だ。体を起こしてみて分かったけど軽く動かすだけでバキバキ鳴っている。それだけ長時間、眠っていて……それでも完全回復できていないんだ。


 恐らく勇者との戦いで受けた傷が深かったからだとは思うけど……これで他の部分で後遺症があったら嫌だな。傷を癒すために自然治癒とかが働いて他の回復に追い付いていない……これが一番、平和な理由だ。


 とはいえ、この伸びは悪くないね。

 恐らくジョブが進化した事とウルという従魔ができた事で数値が上がったのだろう。ウルのステータスは見ていないけど勇者と対等に戦えるスペックがある。そこからして召喚士として俺にかかる補正も低くは無いはずだ。


 ましてや、毒使いとしては毒に耐性を持てたのも操れるようになったのもデカい。……文字通りのスキル効果だったからね。やはり、死の寸前まで追い詰められる程の強敵から得られる経験値は多いらしい。


 この痛みが引けば……それを踏まえたら死んで加護の力で完全回復する方が楽か。……いや、これで自分の命を捨てて回復しなかった時の怖さがある。だって、長時間かけて体が回復し切っていないんだ。どこか体に異変が起きていてもおかしくない。


 もしも……そのまま、死んでしまったら。

 そう考えるとやる気はしないな。それに回復していないわけではないし、体の痛みだって時間が経てば何とかなる。これが不治の病とかなら話は変わっていたけどさ。


 という事で……どうしようか。

 ウルは従魔としているけど……今は俺の体の中にいないみたいだ。ステータスを見た感じレベルが上がっているし戦っているのかもしれない。探しに行くっていうのも手ではあるが……俺の勘が動くなって言っているんだよね。


 だったら、動かないって選択が正しい。

 今のうちにした方が良さそうな事は……勇者戦で他に出たアイテムの確認とデイリーガチャかな。勘で選んだ結果、ウルが出てきたが他にも良いアイテムが出ていないとは限らない。いや、むしろピンチだったからこそ、良い物が揃っている可能性の方が高そうだ!


 さてと、まずはデイリーガチャ……。

 限定ガチャが切り替わっているな。それを踏まえると本当に長い間、眠っていたのかもしれない。とはいえ、さすがに一年や二年と眠っていたわけでは無いだろうが。


 だって、カムバックキャンペーンが無い。

 いや、カムバックキャンペーン自体が無いだけの可能性はあるけど、ここまでソーシャルゲームに似せられたスキルだ。初回特典とかがあるのならカムバックキャンペーンだって無いわけが無い。感覚からして……一月は経っていないんじゃないのかな。


 まぁ、それもただの予想だ。

 外に出てみたら俺以外の転移者が全員、死んでいるなんて可能性もある。……それを考えたら菜奈の事がすごく心配になってきたな。俺抜きで何とかできているんだろうか。まぁ、最悪はグランとフィラがいるから大きな問題は無いと思いたいけど……。


 それでも、すぐに動けないのも事実だ。

 さっさと傷を治して……できれば勇者と戦う羽目になっても余裕で勝てるだけの強さを得ておきたい。アイツは何をしてくるか分からないからね。仮に菜奈のところまで行けても邪魔をされたら面倒だし。


「次は……負けない」


 デイリーガチャのボタンを押す。

 ……出てきたのは赤、それもHPとMPを両方とも継続的に回復してくれるポーションだ。やはりと言うべきか、こういう時にも幸運が高い事がどれどけチートなのかが分かってしまう。いや、極端にガチャとの相性が良いだけではあるんだけどね。


 即座に取り出して飲んでおく。

 これで時期に動ける程には回復するはずだ。そこから状況の把握に移行する。……その頃にはウルも戻ってきているだろう。勘が動くなって言っている時点でウルが危険な状況に陥っているわけではないからな。


 後は……他のアイテムの確認だ。

 見た感じ……明らかに持っていなかったものが七つあるから、これらはウルと一緒に出たものだと思う。一つ目にテント、これは高性能な魔道具らしいから後で立てて内装を確認しよう。


 二つ目に毛布と枕。これは単純な寝具だね。使うかと聞かれれば微妙だけど……まぁ、テントの中見次第って感じではある。ってか、この二つは明らかに勇者戦で出るべきアイテムでは無いだろ。使えそうだから悪くは無いけどさ……。


 三つ目に弓、これは悪くなさそう。

 今まで短剣で戦ってきたけど遠距離として弓を扱えるようにするのも良い。ぶっちゃけ、誰かとパーティを組む気も無いけど……ウルのような近距離で戦う従魔がいるのなら遠距離の方が支援しやすいんだよね。


 そして四つめに五つの短剣。

 これは数からして投げナイフとして扱えそうだ。レアリティは分からないけど低くても良い物が多いからなぁ。きっと俺にあった能力だと思う。少なくとも戦闘には使えるんじゃないかな。


 最後に三つのスキル玉。

 これは名前だけで能力が分かるからいい。名前は『生活魔法』と『速度上昇』、そして『言語共通化』。生活魔法はフィラから話を聞いたり、本で学んだから大体の使い方は分かる。確か、生きていく上で困る事が生活魔法一つで完全に対処できるようになったはず。


 そして速度上昇は常時、効果が発揮されるバフスキルでMPの消費無しで速度にスキルレベルと比例したバフをかける……だったっけ。記憶力には自身があるけど本音を言えば完全に覚えているかは少し不安ではある。でも、間違いなく弱いスキルでは無い。


 言語共通化は……言わずもがな、か。

 これでウルと会話ができるようになるぞ。さっさとスキル玉を割って……おし、全部、手に入れたのを確認した。とりあえず……生活魔法で体を綺麗にしておくか。


洗浄クリーン


 一瞬、体全体でシャワーを浴びたような感覚に襲われてからベトベト感が一気に消えた。服の上からやっていたし俺も含めて全てが綺麗になったんじゃないかな。……後でウルにもやってやろ。やってからモフモフを楽しんでやるんだ。


 テントを立ててウルが帰るのを待とう。

 ここ自体は……勘からして敵が来るような場所では無い事は分かっている。幸運を否定しない限りは恐らく拠点としては持ってこいの場所ではあるだろう。


 さてと……説明を軽く読んだけど立てること自体はかなり簡単みたいだな。それに内容からして明らかに最高レアリティの匂いがプンプンしてくる。それくらいハイスペックな能力過ぎるよ。少なくとも王城暮らしよりも良い生活が出来ると思う。


 という事で……箱が落ちてきたな。

 某ネット通販の箱そっくりなのは変わらないな。適当に開けて袋に包まれた中身だけを取り出す。一緒に取り扱い説明書が入っていたから読んでおかないとね。……ふむふむ、これなら俺でも何とかなるか。

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