1章6話 二人なら寂しくない

「何かあったの」

「その……お聞きしたいことがあったんです」

「聞きたいこと」


 聞くだけで重々しく言う必要があるのか。

 すごく反応が気になっているような雰囲気があるな。あまり人と関わることがなかったのか。ソワソワしているようにも見えて、こっちまで焦ってきてしまう。ジロジロと見てくるのとかも気恥しさを覚えてしまうし。


「あの」

「何?」

「すてーたすって何ですか」


 ……ステータスって何……か。

 これまた難しい質問だなぁ。俺の場合はライトノベルとかゲームとかの知識があるおかげで詰まらなかったけど。多分、伊藤さんの環境ではそういうのに関わりがなかったんだろう。知識では分かっている、だからこそ、言葉で説明しろって言われると何といえばいいのかって悩んでしまう。想像していたような重い相談じゃないだけまだ良かったけど。


 あ、でも、こういう時のミカエルか。

 貰った情報の中にステータスの説明があったはずだ。えっと……ああ、これだな。本当に当たり前のことしか書いていないんだけど……この程度でいいんだろうか。


「何が分からないの……って聞いても分からないことが分からないって感じだよね」

「すいません……そうです……」

「謝らなくていいよ。それなら一から説明するだけだからさ」


 うんうん、答えてくれたらそれでいい。

 仮に聞かないで話し始めたら「そんなの分かっている」って反論してくる人がいるかもしれない。それが怖いから聞いているだけだしね。俺の予想通り分からないことが分からないのであれば全部を説明して理解してもらおう。伊藤さんなら頭が良いだろうからすぐに分かる。


「まずステータスが何かだけど翻訳したら分かりやすいかな」

「えっと社会的地位とかですか」

「そうそう、そのままだよ。オンラインゲームとかだと個々の能力のことも指すんだけどね」


 社会的地位だとしても説明がつく。

 というよりも、ステータスがある世界なら数値が社会的地位と直結するからね。実際、新島とかいう勇者はステータスが高いおかげで城の中での地位は高いし。だから、そのままでも説明する時の問題は無いかな。まぁ……。


「簡単に言うと各項目でGからSSSまでの数値が設定されているんだ。GからAまではアルファベット順、そしてS、SS、SSSって感じだね」

「なるほ、ど?」

「何でか知らないけどゲームとかだとSって特別な扱いを受けるんだよね。SSSが最高なのも同じ理由なのかも」


 詳しくは知りませんが。

 ただ、伊藤さんからすればその説明で納得出来たみたいだ。ゲームとかの知識が無ければAが最初だから最高の数値って思ってしまうよね。まぁ、この説明では足りない部分があるんだけどね。このアルファベットよりも詳しい区分があるらしいんだけど……長くなりそうだからいいや。


「それじゃあ、ステータスっと。まず、これね」

「……あの、見えません」


 見えない……あ、そっか。

 話すまで分からなかったけど他人が出しているステータスは見えないみたいだ。となると、情報を見ていた時も影に隠れる必要はなかったのか。陰キャラ丸出しのせいで今更、恥ずかしく思えてきた。


「なら、ステータスを開いてくれるかな。そうしたら六つの四角が」

「すいません、六つの四角が出てきません」


 えっと……は?

 待ってくれ……六つの四角が出ないってどういうことだ。他人のステータスが見れないのはまだ分かる。ライトノベルでも鑑定眼だとか、魔眼だとかでようやく見れるって展開が多くあるからね。だけど、ステータスが俺と伊藤さんでは違うってことに関しては訳が分からない。


「アイテムとか、ステータスとかで分かれていない?」

「あの……私のステータスが表示されるだけでアイテムだとかはありません」


 アイテムがない……のか。

 もしかして……ガチャのせいなのか。固有スキルがどういう存在なのかは分からないけどスキルとは格が違うんだろう。現にアイテム欄が有る無しで関係がありそうなのがそれしかないし。これは先に知ることが出来て良かったな。ミカエルの情報では……いや、よくよく見てみればステータスについては書かれていたけど他のことは何もありはしない。


 そこで気が付けばよかった。アイテム欄だってミカエルの情報から使えるようになったわけではないし。ほとんど説明が無くて弄っているうちに曖昧とはいえ、理解出来ただけ。だが、早めに知れてよかったな。もっと遅かったら当たり前だと思って考えず口に出していただろう。


「ごめんね、俺のステータス画面は少し特殊みたいなんだ。俺も話をするまで一切、気が付かなかったよ」

「そうだったんですね」


 ということは、だよ。

 アイテム欄が無いってことは道具とかを全て持ち運ばないといけないんだろうか。仮にそうだとしたら俺のステータスってかなり他の人よりも使い勝手がいいよな。だって……アイテム欄を経由することで持ち物を出し入れ出来るわけだし。待て待て……もしかしたら、この出し入れだってガチャ産だからっていう可能性もある。


「手品ですか?」

「いや……ちょっと試したいことがあって」


 まぁ、知らなければ不思議だよな。

 目の前にあった指輪がいきなり消えたわけだし。そんな話を長々と続けるわけにはいかないからね。ただ一つだけ確認させてもらおう。口元を隠して笑っている伊藤さんの目を見つめる。そしたら数秒後、恥ずかしそうに目を逸らしてきた。見た目だけじゃなくて中身まで可愛いんだな。って、今はその話をしている場合じゃない。


「伊藤さんの髪留めって借りてもいいかな」

「え……いいです、けど……」

「ありがと、すぐに返すよ」


 黒い小さな髪留め。

 受け取ってからアイテム欄を弄ってみる。やはり手で持つだけでアイテム欄に名前が出てくるらしい。アイテム欄には『伊藤菜奈の髪留め』って書いてあったよ。タッチしてみてアイテム欄に入るか確認してみたけど、しっかりと消えてくれた。つまりは人のものであっても、もしくは合意さえあればアイテム欄に無機物をしまうことが出来るみたいだな。……ありがたいことに大切なものの中に入っていた。


 すぐに取りだして返しておく。

 俺が貰っても髪は短いからな。使いどころがないし女子から借りたものを使うのにも抵抗がある。使っていいと言われても使い方が分からないから意地悪する理由もないし。


「助かった」

「なんか分かったんですか」

「うん、詳しいことは内緒だけどね」


 別に話して困ることは無いよ。

 でもさ、詳しいことを説明して盗聴されていたら隠す意味がない。下手をしたらこれだけで勇者陣営に取り込もうとしてくる可能性もあるし。荷物運びは悪いけど勘弁だね。どれだけ綺麗な女性やお金を積まれようと自由に勝るものはない。


「そのうち話すよ。今は伊藤さんの疑問を解決させないと」

「そう……ですね……」


 すごく悲しそうな顔をされた。

 悪いね、そうされたら話したくなるけど、それでも守らなければいけないものがあるんだ。今は話せずともダンジョン内とかで話すだけだし。単純に城の中だから話せないっていうだけで人の目が無い場所なら幾らでも教える気でいる。


「それでステータスの事なんだけど」


 申し訳ないと思いつつも話を逸らす。

 この後にどんな用事が入るか分からないんだ。目を付けられないためにも輪の中に紛れ込まなければいけない。それは俺のためでもあるけど伊藤さんのためでもあるしね。俺がいるのに元の世界と同じような経験をさせたくはない。


「多分、口にするより書いた方が早いかな。口頭だと理解するのに時間がかかりそうだし」


 適当に紙を取り出して書いていく。

 俺も正確に分かるわけじゃないからミカエルの情報に書いてあることを模写する。それ以外を書いて間違っていたら申し訳ないからね。少なくとも伊藤さんとは友好関係を築いていくつもりで話しかけたわけだし。えっと……こんな感じか。出来た紙を持ち上げて目を通してみる。




 _____________________

 レベル→その人の成長段階を示す数字。高くなればなるほどに他のステータスが上昇していく。魔物などを倒すことで得られる経験値が規定値を超えた時にレベルが上がっていく。

 HP→0になった時にその者は死ぬ。高ければ高いほど疲れにくくなる。

 MP→0になった時にその者は倒れる。高ければ高いほど頭痛等に強くなる。0に近くなればなるほどに頭痛や吐き気などを催す。

 物攻→物理的な攻撃のダメージを増やす。

 物防→物理的な攻撃のダメージを減らす。

 魔攻→魔法的な攻撃のダメージを増やす。

 魔防→魔法的な攻撃のダメージを減らす。

 速度→行動する時の速度を早くする。

 幸運→色々なものに補正をかける。運が良くなる。

 スキル→魔法などの非現実的な効果をもたらす。またはそれを使用できるようにさせる。スキルの横にある数字はスキルレベルを表し高くなるほどに高い効果を得ることが出来る。

 _____________________




 比較して確認してみたが間違いはないだろう。

 少しだけ分かりづらい部分はあるだろうが下手に訳すのはなぁ……受け取り方で変わりそうだから怖い。スキルとかは俺からは何も言えないし。そういう概念としか思わなかったからさ。まぁ、聞かれたら聞かれた時だな。


「こんな感じ」

「あ、ありがとうございます。親切、ですね」

「仲間だからね、この程度はするよ」


 ちょっと恥ずかしそうに受け取っていた。

 紙の一つや二つでそこまで嬉しくなるか。人の親切に触れてこなかったのだろうか。俺からすればパーティを組んだ以上、出来る限りは面倒を見るというか、助けるのは当たり前だと思うんだけどな。


「読んで分からないところはまた聞いて」

「嫌……じゃないですか?」

「全然、伊藤さんと話せるだけで嬉しいからさ。俺がどうとかは気にしないで欲しいな。記憶が無い分だけ作ろうとしているんだ。今は伊藤さんとの思い出を増やしたいかな」


 気を使わせないようにする。

 これって結構、簡単そうだけど難しいんだよね。気にするのはその人の優しさから来るものだし、逆にやめさせたいのも優しさからだ。なら、納得出来るような言い方をするしかない。実際、伊藤さんとの思い出は作りたいと思っているし。


 伊藤さんは……口元を隠している。

 これは嬉しいな、恥ずかしいってことは俺に対して嫌な思いを持っているわけではないってことだからね。いや、俺基準だからもしかしたら嫌な気持ちを……ないか。それならここまで目を合わしたり逸らしたりしない。


「すいません、ショウ様。夕食のお時間です」

「了解しました、今から行きます」


 甘い時間を過ごしていたというのに……。

 ちょっとだけ扉越しの兵士を恨んでしまった。だが、可愛い子の良い表情を見れたんだ。それだけで良しとしよう。刻印を打った装備を着けたか確認してから伊藤さんを見る。


「さあ、行こうか」

「は、はい!」


 あまり顔を見ないように、それでいて伊藤さんの隣から離れないように……そんなことを意識しながら二人で流れに沿って移動した。

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