1章4話 最初の仲間

「こんにちは」

「あ……えっと……」


 イケボと爽やかな表情を意識してみた。

 けど……うん、反応は微妙だな。飾らない俺の方が良かったかもしれない。こういう時にどういう風に話しかければ良いのか分からないな。はっ、これも記憶喪失のせいか。と、悪いことは全て記憶喪失のせいにしてみる。百パーセントではないけど幾らかは関係しているだろう。


「伊藤さんだよね」

「そ、そうです」

「良かった、ステータスを見て一緒にパーティを組んで欲しいなって思ったんだ」


 弱々しげに返してくる声。

 すごく可愛らしいな、そんなこと言えるわけもないけれど。……反応的には戸惑っているって感じかな。こんな時にイケメンだったらって強く思ってしまう。だが、変えられないものを悔やんでもどうしようもない。今は伊藤さんの出方を探るしか選択肢はないからね。


「私とですか……?」

「うん、魔法が得意そうだったからね。俺はそういうのが出来ないから後ろにいてくれると心強いなって」

「私……魔法を使えませんよ……?」


 な……って少し驚いた顔はしておく。

 知っていましたとも、それを知った上で仲間になって欲しいと声をかけているからね。でも、それを知っているって言ってしまうよりは知らなかった体を装った方が話を繋げやすい。そういう意味で言えば杖が出てくれたのは良かったのかもしれない。別に無くても使えるようになるのは時間の問題だったと思うけどね。ミカエル曰く『魔法の天才』って書いていたからさ。買い被りだったとしてもミカエルから貰った情報を流用すれば簡単に出来るようになるだろう。


「うーん、それでもじゃダメかな」

「えっ……と……」

「何となくだけど伊藤さんなら簡単に魔法を使えるようになると思うんだ。それに兵士にも話したんだけど記憶が無くて……話しかけやすそうでパーティを組みたいって思えたのが伊藤さんしかいなかったからさ」


 まずは同情を誘う作戦に切り替えよう。

 ここは作戦名ガンガンいこうぜ、で。いのちだいじにだと絶対に乗り切れない。ってか、内心はすごく恥ずかしいし。一人でいられないのに他の人と組むとか、友達がいないクラスで修学旅行に行くのと同じようなものだからね。一人で夢の国とか地獄だろ、一転して修羅の国へと変わってしまう。


「記憶、無いんですか」

「うん、元がどんな名前だったのかも分からないし何でここにいるのかも分からないんだ」


 まぁ、後者は知っていますけどね。

 ミカエルとかいうドジ女神のせいで不運にも転移に巻き込まれました、とは言えるわけもない。そもそもミカエルのこと自体が口に出していいのかも分からないからさ。それに今は同情でも何でもいいからパーティさえ組めればいい。


「私、足でまといですよ」

「話し相手になるだけでも十分だよ。こう見えて戦う手立てはあるからね」


 足でまとい、大いに結構。

 それだけ一人は嫌だし、他の人に魅力を感じなかった。俺と同じオタクは出来れば回避したい。可愛らしい女性と組みたいのは男だったら誰でも思うことのはずだ。


「他の人から攻撃をされるかも」

「そう言ってくれるってことは伊藤さんはすごく優しくて良い人だと思うんだ。尚更、他の人じゃなくて伊藤さんと組みたいって思えてきたよ」


 他の女子から攻撃されることは想定している。

 だからこそ、やっかみをしそうな人達が新島に惹き付けられているうちに話しかけているんだ。勇者が相手ではあろうと攻撃してくるのであれば弱いなりにも手はあるからね。


 それに優しくないと嫌な人と組むことになる危険性を孕んでいるのに断りを入れては来ないと思うんだ。だからこそ、ミカエルの情報抜きにして俺は本気で組みたいって思ってしまった。多少は自分の手の内を晒してもいいって思っている。


「お願い、俺を助けると思って」

「……不思議な人ですね」


 ここまで来たのなら土下座でもしてやろうか。

 いや、逆に引かれる可能性もあるからしてはいけないな。ここは押し続けるだけだ。伊藤さんの顔も話しかけた時よりは柔らかそうに見えるし、後一歩で行けるはず。手を出して笑いかけてみる。


 不思議な人か、他の人からそう見えるんだ。

 ぶっちゃけて言えば頼む時に何をすればいいのか、定石が一切、分からないからね。その点で伊藤さんからすれば他の人とは違うように見えてしまうのかもしれない。まぁ、変わり者であろうと何だろうと嫌われなければそれでいいからさ。例え悪魔となろうとも目的を達成出来ればそれでいい。


「私は忠告しましたからね。それでもいいと言うのであれば仕方が無いので許します」

「あ、ありがとう!」


 滅茶苦茶、柔らかい感触。

 可愛らしい笑顔で手を握り返してくれた。うんうん、やっぱり作戦はガンガンいこうぜ以外になかったね。こういう奥手な子には半ば強引でも自分の欲望を叶えられるように行動した方がいい。忠告とかは俺からすれば要らないものだし。


「俺はショウ、そのままショウって呼んで欲しいな」

「ショウさんですね、分かりました」


 うんうん、少し困惑した感じも可愛いな。

 眼鏡を外したらもっと……待てよ、これはこれで違う可愛らしさがあるな。ここで可愛いって素直に言ったら喜ぶんだろうか。もう少し好感度を稼いでから言ってみよう。少し強引だけど伊藤さんの隣を陣取って周囲の人達を見てみる。この距離であれば咄嗟に攻撃されても守ることが出来るだろう。


「結構、パーティが決まってきましたね」

「そうだね、他は四人が多いみたいだけど」


 一人は……もういなさそうかな。

 居て二人だけど、一人がいたとして俺からすれば話しかける必要ないんだよなぁ。組んでみれば良い人っていう可能性があるかもしれないけど分からないからさ。自分の力を晒すのは出来る限り減らしておきたい。そのためにミカエルがピックアップしてくれたんだ思う。記憶が無いと教えてくれたのもミカエルだったし脅し、もとい情報が欲しいとも言っておいた。その分の助けがあってもおかしくないだろう。


 それに勘が二人でいいって言っているんだ。

 何となくって今は大切だと思う。昔がどうであったかは知らないけど今は幸運が高いからね。これも幸運が必要ないって叫んでいるんだと思えば増やさない方が吉だろう。パーティメンバーが多いことでのメリットはあるけどデメリットも割とあるし。だから、今は要らないかな。


「今は二人でいいかな。安心して、伊藤さん以外には見せられない秘策があるんだ」

「ふふ、その言葉を信じておきます」


 有難い限りだね、もっと信じて欲しい。

 今はちょっと無理でも今夜……もしくは戦闘前に杖を渡せば話は一転するし。確か伊藤さんのMPは三百を超えていたから十分に扱えるだろう。俺とは大違いすぎて涙が出そうだ。……そんな強い人を仲間に出来たと思えば幾分かはマシかな。代わりに物理面が俺より弱いのがネックだけど。


 ちなみに他の人達は……。

 明らかに陰の人達と陽の人達で分かれているね。勇者君はピックアップされていた女三人と、男三人の方は一緒に組んでいるようだ。敗れた他の女性達は個々で友達同士で組んでいるのかな。こっちに来る人はいないから助かるけど……間違いなく睨んできてはいる。おーおー、女性の嫉妬ほど怖いものは無いね。自分よりも魔法面で勝っている伊藤さんがそんなにも怖いか。


「あの」

「気にしない気にしない」


 気にされたら困るよ。

 少なくとも俺には組んだことでの後悔はない。こんなに可愛い子と二人きりになれて嬉しくない男子がいるだろうか、いや、いないね。まぁ、伊藤さんがどう思っているかは分からないけど。そのうち見返すチャンスも回ってくるだろう。今は耐える時ってだけだ。


「大丈夫だよ、俺が守るから」

「……え?」


 あ、口が滑ってしまった。

 半ば脊髄反射とはいえ、口にする前にもう少しだけ考えるべきだった。実は喉元に来た時に言うか少し悩んだんだ。この失敗は伊藤さんにだけ意識を向けていれば防げたはず。反応的に正解とは言えなさそうだし……あー、辛い。


「あの、ありがとうございます」

「ごめん、嫌だったよね」

「嬉しいですよ……その……初めてそんなことを言われてビックリしただけで……」


 本当にそう思っているんだろうか。

 内心、このブス調子に乗りやがってよとか思われていないだろうか。さすがにそこまででは無いとしても嫌な気持ちをさせたんじゃないかって思ってしまう。こういう時に記憶が無いのは辛いね。経験則とかすらも頭に無いわけだから表情で正解かどうかを判断出来ない。でも……笑っているから悪くないってことにしよう。


「俺がパーティを組みたいって言ったんだ。責任を取って守らせてもらうよ」

「はい!」


 この大きな声での返事は正解ってことかな。

 この顔を見て嫌だって思っているようには見えない。これからは伊藤さんの表情や仕草をしっかり頭に入れておかないとね。何が嫌で、何が嬉しいかを学んでおかないと解散して欲しいって言われかねないからさ。出来れば俺は解散しないで二人で城から抜け出したい。


 俺がいるからか、変に絡んでくることは無い。

 パーティが組み終わるまで二人で静かにして待っていた。十分くらい経ってからようやく一人がいない状況になったね。見渡してみたけど組み始めと変わらず陰の人達と陽の人達で綺麗に分かれている。それに男女混合のパーティも俺達含めて四つくらいしかない。こうして見ると俺は恵まれているのかもしれないね。まぁ、運が良いので当然ですが!


 ササッと皆に合わせて兵士に近付く。

 分からなかったけどパーティメンバーを書いていたようだ。一人で行っていたので伊藤さんのフルネームと自分の名前だけ言って会釈しておいた。紙を軽く見たけど四人がほとんどだからね、二人しかいないことに驚かれてしまったけど伊藤さんの顔を見てから何となく察したような表情をされた。


「今度からは決めたパーティで行動してもらうことになります。食事や寝床などは隣同士となるのでご了承ください」

「へぇ」


 隣同士か、話がしやすくなるね。

 しておかなければいけない話は伊藤さんの部屋に行けばいいだけだしね。城の一室ということもあって隣の音が聞こえる何て、壁の薄さからくるプライベートな問題は無いだろう。伊藤さんからしたら嫌な気持ちが湧くかもしれないけど俺の行動一つで解決出来るから些事たる問題か。


「今夜、少しだけ話をしても大丈夫かな」

「えっと……いいですよ」


 伊藤さんに確認を取ってメサリア達の後を追う。

 どれだけバラしても大丈夫なのかは分からない。だから、まずは簡単なことを教えないとね。例えば使う武器とか戦い方とか、ガチャに関しては後回しかな。それも……伊藤さんを本気で信じられるようになったら全部、教えよう。

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