第48話 深瀬悟
K少年刑務所第一工場計算係
計算係と言うのはK少年刑務所の工場の中での役職のトップ。
つまりは、その工場のトップに君臨しているという事になる。
一工場のトップは
体育際に向けたリレー対決ではメンバーに選出される事は無かったが、やはり少年刑務所の工場のトップが運動能力と無縁はハズが無い。
深瀬さんは一工場の水泳大会2連覇に多大なる貢献をした化け物。
もと水泳の国体選手であり、100m自由形では49秒95という驚異的なタイムをたたき出した人物。
立花さんが陸の伝説なら深瀬さんは水中の伝説。
今年の水泳大会でも大暴れする事間違いなしの生きる伝説、深瀬さんと一緒に練習が出来るのだ。
私はなんて恵まれているのだろう。
K少年刑務所中に響き渡る様な伝説が2人も同じ工場に存在しているのだ。
確かに42歳、人生の秋を迎えた私が立花さんや深瀬さんといった伝説を超える事は不可能なのかもしれない。
でも、決して届く事の叶わない頂きだとしても、目指していけない理由があるのか?
超えようとしてはいけない理由があるのか?
そんなものはない。
あるのはただ甘えた心と自分への言い訳だけだ。
せっかく伝説がいるのなら、伝説を目指さない手はないではないか。
生ける伝説、深瀬さんがウォーミングアップで50mを軽く流して泳ぐ。
なんだコレ?
今のがウォーミングアップ?
嘘だろう?
この人は本当に私と同じ人間なのか?
これが伝説。
ありがたい。
誇張でもなんでもなくて、この人は本物の怪物だった。
いつかこの人に認められる存在になったなら、この人と話す事が出来るだろうか。
立花さん然り深瀬さん然り、これほどの運動能力を発揮するには才能はもちろんだが常人には想像も出来ない様な血の滲む努力が必要なはずだ。
才能とひたむきに努力する事が出来る鋼の心を持ち合わせた漢達が、なぜ道を踏み外したのか。
そして、彼らが刑務所の先に描く未来はどんな景色なのか。
いつか聞いてみたい。
そして、あわよくば私もその景色を同じ目線から眺められるくらい命を燃やし尽くしたい。
私の心の底からは、この漢と共に水泳大会を戦いたいという思いが溢れて止まらない。
あぁ、まったく。
誰も彼もが私の心に炎をともす。
心の炎に燃えつくされない様に体を追いつかせるのに必死の毎日だ。
だけれどそれが心地良い。
42歳人生の秋を迎えた私の心は刑務所で人生史上最高兆の青春を迎えている。
あぁ、絶対に水泳大会のリレーメンバーに選ばれてやる。
3連覇だ‼
深瀬さんだけじゃない、私の部屋の仲間達で3連覇に貢献するんだ。
「3連覇」
気が付けば、私の口からは人生で口にした事のない言葉が漏れ出ていた。
最高に熱い夏が来る予感がする。
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