第46話 とあるストーカーのお話。
何もない。
私には、もう、何もない。
愛する人達も、愛してくれていた人達も、もう誰もいない。
知らなかった。
本当のひとりぼっちになったら、寂しさすらも感じないんだ。
考えてみれば当たり前だよね?
だって、会いたい人がいないんだから、寂しいもなにもないじゃない?
誰にも必要とされていない、誰も必要としていない。
ただ、息を吸って吐いてしているだけ。
だったらせめて、この場所を空けた方がいいよね?
どんな命だって場所を占めている以上、そこに立てない命があるもんね?
ましてや日本国籍という神様からのギフトが欲しい恵まれない人達なんて世界には星の数程いるはずだもの。
だったら、何の未練もない、こんな命は終わらせよう。
「空、飛んでみたかったんだよね」
「おいっ、何してんだよ?やめとけよ」
「あなたこそ、こんな夜中に、こんな場所で何してるんですか?もしかしてストーカー?キッショ‼」
あぁ~、やだやだ。最期くらい、静寂の中で悲劇のヒロイン気取りながら死んでいきたかったのに、なんなのコイツ?
まぁいいや、どこの誰だか知らない奴は無視してさっさと飛び降り…。
「キャッ!?ちょっと何するのよ‼マジでストーカー?キモイんですけど」
「こうしなくっちゃ君が飛び降りるのを止められないだろ?」
突然真夜中の学校の屋上に現れた見ず知らずの男に抱きしめられる美少女JKの図。
「私が私の命をどうしようが私の勝手でしょう?私の飛び降りを止めたって、あなたには何の得も無いですよ?それどころか、助かった暁にはあなたが夜中にここに連れ込んで私の事を犯そうとしたって警察に被害届出してやるんだから」
「別に、被害届でもなんでも、好きに出したらいいさ。それで君が助かるのなら」
「なんでそこまでして、見ず知らずの人間の事を助けようとするの?もしかして、私が可愛いから?ここで私を助けたら後日ワンチャンあるとでも思ってるの?ないわよ、あんたみたいなキモイ偽善者にチャンスなんてある訳ないでしょ」
「君がどうこうの話じゃないさ、誰にも命を無駄にさせたくない。この世界には生きたくても生きられなかった人も沢山いるんだ。だから、誰にも命を粗末にはさせたくない」
見ず知らずの男が私を引っ張る。痛いしマジでキモイ。勝手に触んな。
「生きる方が辛くても?」
「あぁ」
「自分勝手過ぎるんじゃない?」
「そうだよ、ただの俺のエゴだよ?でも、俺が何者だろうが理不尽だろうがなんだろうが、今、君は助かった。この世界に意味なんてないし、運命だとかそういうのも信じてないけど、ただ君は今ここで死するべき自然現象ではなかったってことなんじゃないか?」
「マジで何言ってんの?キッショ‼キモ過ぎて学年1位の超優秀な頭脳でも形容すべき言葉も見当たらないんですけど」
「なんでもいいけど、今日は生きろよ、そんで、俺の見えない所で死ねよ、そしたらもう俺は君の自殺を止めようがないだろ?」
「何なの?この超絶エゴイスト。マジで訴えてやる、実際さっきどさくさに紛れて私の豊満なおっぱい触ってたし、この変態エゴイスト」
「そうしたいなら、警察に被害届を出せばいいよ。俺は坂田 透。君がどの学年かは知らないけど、この高校の学年1位の超優秀な頭脳を持った変態エゴイストだよ。素性が分かった方が被害届も出しやすいだろう?」
いつの間にか校門まで引っ張られた私を後に残して坂田 透は立ち去っていった。
なんなのアイツ。
変態エゴイスト。
むかつく……………うん、よし、アイツの事ストーキングしてやろう♪
~1年後~
坂田の奴、K大学なんか入学しやがって、マジで学年1位の秀才だったのか、ただの変態エゴイストじゃなかったんだな。
それにしても、アイツ、なんかおかしい。
ここ1年、ずぅ~っとストーキングしてるのにアイツの笑ってる所見た事ない。
大学でもバイト先でも、自宅でも…。
友達も恋人もいないみたいだし、家族は、分からないけど。
友達の1人くらい作ったらいいのに、恋人は…まぁ作ったら即日にその女は私が殺すけど。
自殺しようとしている人間の命を救う様な人間が死んだ様に生きてるなんて、これはどういう
教えて一休さん…あっ、動いた。
ドクン、ドクン、今日は話しかけるって決めたんだ。
ドクン、ドクン、絶対に話しかけるって決めたんだから。
ドクン、ドクン、人通りの少ない道に入った。よしっ、今だ。
「わっ、わたひっ‼ぼえてっ…どうも」
「なんですか?」
坂田が人殺しの様な目を私に向ける。
何こいつ?人の命助けて、生きろとか言ってきたくせに、めっちゃ怖いんですけど?
落ち着けぇ~私ぃ~。こういう時は大きく深呼吸して心を整える。
すうぅぅぅ~はあぁぁぁ~。
「ちょっ、まって‼どこ行くの?」
「いやっ、バイトあるんで」
「あっああああ、あのぉ~、ほらっ、わたしだよわたし。覚えてない?」
「オレオレ詐欺って対面でやる類の犯罪じゃないでしょ?そんなのにひっかかるやついるの?」
「何?本当に覚えてない?こんな可愛い女の子が記憶から零れ落ちるなんて事ありえるの」
「すいません、本当に急ぐので、これでっ。」
そういうと坂田は私の全力のディフェンスを掻い潜ってバイト先へと向かった。
何アイツ、マジで私の事覚えてないの?
自分で言うのもなんだけど、私中々の美人&ナイスバディなのに、マジでワンチャンとか狙ってた訳じゃないんだ?
なんなのアイツ…。
私の事忘れんなよ、変態エゴイストの分際で。
よぉ~し、今日も張り切ってストーキングするぞっと💛
~数か月後~
坂田のやつ、こんな夜中に墓場になんかやって来て、墓荒らしでもするつもりかよ?
ていうか、夜の墓場マジで怖いんですけどぉ~。どうしよう、今日はストーキング中断しようかな?いやっ、ダメ、だってこの1年とちょっとの間の坂田といったらマジで同じ日々の繰り返し、感情の無いロボット人間。それがようやく日常とは違う行動をとったというのに、ここでストーキングを中断したら、今日までストーキングしてきた日々が報われないじゃない。
頑張れ私。
ガンバッ‼
最後までストーキングやりきるのよ。あなたなら出来る。フレーフレー美雪、頑張れ頑張れ美雪‼
「もう10年経つんだね?本当にあっという間だったよ」
何アイツ、誰と喋ってるの?幽霊?アイツ霊能力者なの?
「あれからずっと、死んだ様に生きてるよ。この世界も自分自身もどうでもよくてさ、死んだ様に生きている。」
何なの?アイツ?自殺しようとしてた時の私と同じ事言って、私が死のうとするのを偉そうに止めたくせに。
「ねぇ知ってた?この世界に会いたい人が一人もいなくなったらさ、寂しいなんて感情はなくなるんだよ」
そうだよ。だから私は、もう終わらそうとしたんだよ。
「でもさ、約束したから生きるよ。この世界に生きる意味なんてひとつも見出せそうにないけどさ、長く見積もってもあと50年も我慢すれば終わるだろ?もう少しの辛抱だ」
何言ってんのよ?生きる意味が見いだせない?私の命を救ったあなたがそれを言うの?じゃあなんで私を助けたのよ?
あの時の私には生きる意味なんてなかった。だけど今の私にはあるよ。
あなたがくれたんだよ。
そんなつもりはなかったかもしれない、でも、この気持ちはあなたがくれた。
だから、もう、私は自ら死のうなんて思わないし、死んだ様に生きようとも思わない。
命を燃やし尽くす。
生きられなかった人の分まで、死にゆく人の分まで、今この瞬間を全力で生きていく。
だから、私は、あなたを許さない。
死んだ様に生きるあなたを許さない。
そんな顔で生きるなよ。
命を粗末にするなよ。
あなたが私に教えてくれたのに。
どうしてあなたはそんな生き方をしているの?
おかしいじゃない。
あなたは私の生きる意味なんだよ。
あなたがいたから私は生きていて、あなたがいるから私は生きている。
だから、私の全部をあなたにあげる。
私の全部で、あなたを笑顔にして見せる。
私の全部で、あなたがこの世界を愛せる様にして見せる。
だから、ねぇ…もう、そんな顔しないでよ。
~出会いから2年後~
ドクン、ドクン。
今日こそ、行くんだ。
ドクン、ドクン。
頑張れ、私。
ドクン、ドクン。
もう、残された時間はないのよ?
ドクン、ドクン。
1年前と同じ醜態を晒している場合じゃないわよ。
ドクン、ドクン。
大丈夫。落ち着いて。
落ち着けぇ~私ぃ~。こういう時は大きく深呼吸して心を整える。
すうぅぅぅ~はあぁぁぁ~。
よっしゃあ~。行くぞっ‼
「ねぇ‼」
……。
「もしもぉ~し」
……。
「ねぇってばぁ‼」
「俺に何か用ですか?」
大丈夫。
大丈夫だよ、私。
私はこの人を幸せに出来る。
私の全てを捧げてこの人に愛を教える。
そう、きっとそれが…。
それが、私がこの世界に生まれてきた意味。
「君、ちゃんと息出来てる?」
その日から、夢の様な季節が始まった。
私の前に突如として現れた幸せという名前の季節。
私と君の幸せな時間。
あぁ…。
心から思う。
私、生まれて来てよかった。
ねぇ、坂田君…、心から…ありがとう。
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