第30話 3類昇格

 未決囚の期間が終わり、アカ落ち(既決となり正式に受刑者となる事)してから半年が経過すると、3類に昇格する事が出来る。


 受刑者には制限区分として、1~4種があり、優遇措置として1~5類がある。


 どちらも数字が小さい程、大きな緩和措置や優遇をされる仕組みとなっている。


 特に懲罰等を受ける事の無かった私は、無事、今日から3類に昇格出来るはずである。


 詳しい優遇内容については割愛するが、3類になると、自費で購入できる物品が増えたり、手紙の発信及び面会の回数が増えたりする等の優遇措置がある。


 そして、3類に昇格した受刑者達が一番胸を躍らせる優遇措置が3類集会なのである。


 3類集会とは、1~3類までが参加出来る昼食後の集会で、何と、その際には娑婆のお菓子を食べる事が出来るのだ。(その際4類と5類の受刑者は、講堂に連れていかれて、過去に懲罰を受けた囚人の経験談を聞くという地獄の様な時間を過ごすのである)


 4類以下の受刑者は、祝日に支給される特食とくしょくという形でしか、お菓子にありつく事は叶わないが、3類になれば月に1度の集会、更に2類になれば1~2類集会、そして1類になれば矯正指導日にもお菓子が支給され、さらには矯正指導日の昼食時に自費で娑婆のお弁当を購入する事が出来る。(刑務所によっては、某ハンバーガーショップのハンバーガーを購入する事も出来るとか)さらに、1類はCD及びCDプレイヤーも購入する事が出来るのである。


 そういう訳で、類進(類が上がる事)は、受刑者にとって、生活を送る上でのモチベーションの大半を占めているのである。


 2類はもちろんの事、1類ともなると、回転率の速い第一工場(2~3年程の刑期の受刑者が大半を占める)では、K少年刑務所の英雄である立花さんと、一工場のトップ、計算係の深瀬さんの2人しかいない。


 そして、2類も全員立役で、座作業者は全員3~5類という構成になっている。


 舎房を出て工場に着くと、さっそく類進の発表が始まった。


 類進では、類が変わる者(生活態度が良く、類が上がる者。もしくは懲罰等を受けて類が下がる者)が呼ばれる。


 まずは3類に上がる受刑者達が、おやじに名前を呼ばれていく。


 「605(ロクマルゴ)天月」


 「はい‼」


 いよいよ、私も3類に上がる日がやって来たのだ。


 刑務所での優遇が良くなって喜ぶのもどうかと思うが、しかし、まだ受刑生活の先は長いのであるから、やっぱり集会に参加出来るのは、素直に嬉しい。


 3類の発表が終わり、高ぶる気持ちを押し殺して作業席に座る受刑者の面々。(ここで騒いだりしようものならば、懲罰を受けて、あっと言う間に4類もしくは5類に落とされてしまうのである)


 そういう訳で、類が上がった喜びを分かち合うのは運動の時間までおあずけなのである。


 3類に上がった受刑者の浮足立った気持ちで充満した工場の雰囲気を、


 「1075(センナナジュウゴ)仲根」

 

 という、おやじの声が貫いた。


 「はい‼」


 受刑者達の視線が(もちろん顔は動かさずに、目線だけ)担当台へと向かう仲根さんに集まる。


 (まさか、仲根さん、2類に上がるのか?という事は、横溝さんの次の衛生係は仲根さん?いやっ、でも、そうなったら立花さんはどうなるんだ?)という受刑者達の心の声が、工場内に溢れているのを感じながら、私もまた、同じ様な事を考えているのであった。


 前の工場で職業訓練を受けていたから、今回、立花さんは1類をキープ出来たが、生産工場では、立役をやっていなければ1類をキープする事は出来ないのである。


 K少年刑務所の英雄である立花さんは、受刑者達からの信頼も厚く、憧れの的であるし、もちろん、おやじの大のお気に入りであるから、立役になるのは間違いないだろうと思っていたけれど、立役で近い内に娑婆に出る予定があるのは横溝さんだけなのだ。


 このタイミングで2類に上がった仲根さんは、一躍、立役候補にも躍り出たのである。


 2類に上がった仲根さんは、私の隣の作業席に座ると、


 「そうだ、まだ、可能性はあるんだ」


 と、小さいが力強い確かな言葉を吐き出した。


 立役をめぐる競争は、ここにきて、大荒れ模様である。


 


 

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