第8話 NO混ぜ飯NOライフ
刑務所で受けたカルチャーショックは沢山ある。
年齢に関係なく刑務所に先に収監された者が偉いという
便器に手を突っ込んで行う便所掃除。
どんな些細な事であっても、誰かに注意を受けたら部屋責任者に報告するという
一つ一つあげていけばキリがないのだけれど、その中でも私が一番驚かされたものがある。
それは混ぜメシ。
混ぜメシとは、
私も初めて見た時は驚きを禁じ得なかった。
コーヒーゼリーの封を開け、それにコーヒーフレッシュをかけてグチャグチャに混ぜた後で、それを麦シャリに混ぜて勢いよくかきこむのだ。
美味い美味いと喜ぶ彼らを目の当たりにした私は、懲役生活を長く続けると、やはり頭がやられてしまうのかと、恐怖に似た感情を覚えたものである。
しかし、お前もやってみろよと言われて、しぶしぶコーヒーゼリーメシを食してみると、意外や意外、コーヒーゼリーと麦シャリが混ざり合う事によって生まれる新触感の楽しさに、私の顔は自然と綻んでいた。
そして、コーヒーゼリーの甘みとコーヒーフレッシュのまろやかさの絶妙なマリアージュに、私の口の中はあっという間に極楽浄土と化したのである。
その日から、私は混ぜメシにのめり込んだ。
コーヒーゼリーやプリン、各種ムース等の通常の食事についてくるデザートはもちろんの事、祝日に出される
甘い系のお菓子、クッキーやビスケットにチョコレート菓子等はもちろん、ポテトチップス等のしょっぱいお菓子も麦シャリには良く合うのである。
娑婆で暮らしている頃は、お菓子を米にのせるなんていう発想は無かった。
刑務所に入らなかったなら、私はこの人生でメシにお菓子を混ぜる事は無かったであろう。
刑務所では辛い事が多い。
見ず知らずの他人、しかも犯罪者達(私も犯罪者なのではあるが)とのストレスフルな共同生活。
自由は制約され、人間としてのあらゆる権利は剥奪される。
まるで虫けらにでもなった様な気分で過ごす毎日である。
そんな刑務所生活において、知れて良かったと思える数少ない事の一つが混ぜメシなのだ。
娑婆に住む人々にも、是非一度、コーヒーゼリーメシを試して頂きたい。
ビックリするくらい美味くて、きっとやみつきになってしまう事請け合いである。
そんな私のMy favorite混ぜメシは、朝食に出てくるメニューを使った、高菜納豆牛乳メシだ。
混ぜメシは宇宙である。
私は娑婆に出るその日まで、この刑務所で混ぜメシの探究者として日々の新しい味との出会いを楽しんでいきたいと思う。
ノー混ぜメシノーライフ。
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