第27話 判らん奴だ
「……リンツ。お前」
ギャラガーはしかめ面のままで身を引いた。
「何でしょう?」
店主は笑みを浮かべた。
「……まあ、あれだ。多少、どっかおかしい奴の方が、いいもん作ったりするからな。どの業界でも」
呟くように〈カットオフ〉の主人は言った。
「それでお前は、人間を作りたいのか、リンツ?」
「一般論をお話ししていたと思います」
笑んだままで店主はギャラガーの台詞をそのまま返した。
「判らん奴だ」
「そうでしょうか」
「言いたいことがあるなら要点をまとめて話せ。神話がどうのと……訳の判らんことは抜きでな」
「では、簡潔に」
店主は軽く咳払いをした。
「所定の登録をしなくても、サンディはジェフ氏をマスターと認めていた。プログラムに書かれていないはずの反応を見せ、彼女のマスターに伝えようとした。二日を過ぎればロックがかかることをね。でも彼女のトークレベルは足りなくて、ジェフ氏には伝わらなかった――」
「あ……阿呆か」
ギャラガーは口をあんぐりと開けた。
「ファンタジストにもほどがある。その辺の夢見るフェティシストじゃあるまいし」
「彼らが相思相愛であった、とは認めないのですね、お父さん?」
「おい、冗談もほどほどにしろよ。リンツェロイドに心なんて」
「ええ、ありませんね」
あっさりと〈クレイフィザ〉のマスターは言った。〈カットオフ〉のマスターは口を開けたままで彼を見た。
「あんた」
「何でしょう」
「さっきも思ったが。やっぱり、間違いない。トールが正しい。あんた、変だ」
「有難うございます」
にっこりと店主は答えた。
「――あんたのファンタジーはさておいて、俺がジェフを訴える方針は変わらない。本気でサンディのマスターになりたきゃ、罪は償うべきだからな」
「私は口を挟みませんよ」
「挟みまくったじゃないか」
「主には、つぐんでいただけだと思いますが」
「ああ言えばこう言う……俺の嫌いなタイプだ」
「そうですか」
店主は少し笑った。
「私は、あなたが好きですけれどね」
その台詞と微笑みに、ギャラガーは大きく一歩を引いた。
「私の性的傾向は同性ではありませんので、口説いている訳ではありませんよ。お疑いでしたら、性癖テストの結果をお送りします」
「い、要らんよ、別に、んなもん」
いささか慌てたようにギャラガーは手を振った。
「あー、じゃあな。いろいろすまなかった。それから助かった。もしジュディスがあんたの工房に迷い込むようなことがあったら、また連絡をくれ」
「ええ、すぐに」
「まあ、ないだろうが」
「ないでしょうね」
つまり、と彼はあごに手を当てた。
「いまのは『もう連絡するな』――ということですね?」
「さあな」
ギャラガーは唇を歪めた。
「シャロン。車を」
「はい、ギャラガー」
「……どういうことなんですか」
車輪のない車が出発の合図を明滅させ、音もなく走り去ったあと、トールは彼のマスターを見た。
「どう、とは何がだい」
「ですから。どうしてサンディがミスタ・ジェフに……応えたなんて言ったんですか」
「ロイドに心なんてないのに?」
「……ええ」
トールはかすかに視線を下げてうなずいた。
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