第21話 彼女を守るために

「彼がいつものように清掃に入り、サンディとのつかの間の逢瀬を楽しもうと彼女の見えるフロアに向かったとき、彼は窃盗団と鉢合わせ」


「えー?」


「まじか」


「嘘っぽーい。それも出鱈目じゃないの?」


「正直、最初は僕も『まさかそんな』と思いましたよ」


 ジェフの話によれば、三名から成る覆面の男たちは、いままさにサンディを「誘拐」しようとしているところだった。彼はモップを振り上げて、大声を出した。


「危ねえだろ。殺されるぜ」


「彼女を守るために夢中だった、と」


「トールちゃん、信じたの、それ」


「ですから、最初は疑いました」


 少年ロイドはまた言った。


「窃盗団のひとりは、銃を取り出したそうです。でもほかのひとりがとめて、彼らは逃げることにした。ジェフ氏は追いました。サンディを返せ、返せと叫んで」


「嘘くさい」


 やはりライオットは渋面を作った。


「俺は信じないね」


「〈カットオフ〉ってのは、うちより小さいのか? そうじゃないだろう?」


 アカシも胡乱そうだった。


「セキュリティ、どうなってんだよ。うちだって侵入者の検知くらい、するぜ。まあ、俺たちが起きてるときは俺たちが検知することになるけどな」


「まさしく、それなんです」


「どれ」


「〈カットオフ〉には、リンツェロイド級の性能を持つ警備ロイドがいました。贅沢な話ですね。普通は」


「そうだな。普通は」


 ここ〈クレイフィザ〉の場合は、従業員や技術者兼、ということになる。あまり贅沢という感じはしない。


「じゃあ何?〈カットオフ〉の警備ロイドが無能だったってこと?」


「彼女はその夜、メンテナンスに入っていて」


「はあ?」


 ふたりは異口同音に言って、続けた。


「彼女お?」


 まずそこに、彼らは引っかかった。


「警備ロイドは、女性型だそうですよ。シャロンさんがギャラガー氏を押さえつけられたのも道理と言いますか、〈カットオフ〉はそういうのが得意なんですね」


「へえ、一部マニアに受けそうだねえ」


「何ですか、一部マニアって」


「別にー」


 ライオットはひらひらと手を振った。


「メンテナンスは不定期で、その日は人間の警備員を入れるらしいんですけど、そのときは何の手違いか、警備員がいなくて」


「嘘、っぽ、い」


「黙って聞けよ」


「アカシだって突っ込んでたじゃん」


「俺のは適切な質問だ」


「うわ、図々しい」


「何がだよ」


「でも、だって、嘘っぽいじゃんか」


「否定はできんが、トールを責めたって仕方ないだろう」


「責めてないよ。感想、言ってるだけ」


 ライオットは主張した。


「警備員が不在だったというのは間違いなく事実ですよ。ギャラガー氏も言っていましたから」


 とりなすようにトールは言った。


「それで、メン・イン・ブラックはモップにびびって、そのまま逃げ出したってか?」


 アカシが尋ねた。トールは苦笑した。


「モップにびびった訳じゃないでしょうけど。ジェフ氏の剣幕に気圧されたか、ほかにも人がきたらまずいと思ったのか、何だか知りませんよ。僕もジェフ氏もね。でも彼らはそのまま、サンディを捨てて逃げた」


「一対三で? モップ対、銃で? おかしいよ、そんなの、絶対」


 ライオットは両足をばたばたさせた。


「そいつ、自分は盗んでない、拾っただけだ、ってことにしたくて出鱈目言ってんだよ」


「かもしれません。拾って連れ帰るのだって窃盗と変わりませんけれど、計画性はないということになりますからね」


「まあ、警察が調べるだろう。出鱈目なら知れるさ」


「わっかんないよー、まともに調べないかもよー、嘘だって頭っから決めつけてさ」


「お前も決めつけてるじゃないか」


「俺が決めつけようとどうしようと、ジェフとかには関係ないんだからいいじゃん。でも警察はきちんと調査すべきだね。いくら嘘臭くってもさ」


「もっともですね、ライオット」


「自分に都合のいい言い方しやがって」


 トールはうなずき、アカシは毒づいた。


「現在、ジェフ氏の容疑がリンツェロイドの窃盗であることに変わりはありません」


 兄は弟たちを順番に見た。


「彼の話が真実だとしても、彼は、窃盗団の諦めた〈サンディ〉を……隠匿した訳ですから」

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