第20話 あれは面白がってるだけ

 それでそれで、と目を輝かせたのはライオットだった。


「どうなったん? ん?」


「僕は、平行線だろうと思ったんですよね。マスターが気を変える様子はなかったし、ミスタ・ギャラガーも同じで」


「だがマスターは、お前に偽タキと連絡を取らせたんだろう?」


「ええ」


 トールはうなずいた。


「シャロンさんの機能がどれくらい高性能か判らなくて心配だったので、念のために店の外から」


「警戒しすぎ」


「盗聴機能なんて、普通、ないぞ」


「ええ、普通は」


 でも、とトールは続けた。


「彼女の手首には個体識別番号がなく、爪があったと言いませんでしたっけ?」


「……普通じゃない、型破りマスター、って訳か」


「うちと同じく、ね」


 リンツェロイドたちは苦笑いを浮かべた。


「まあ、警戒しすぎだろうとは僕も思いました。だいたい彼女は、僕らのマスターの目の前にいたんですからね。仮に何かしようとしても、マスターが気づいたはずです。でも警戒しすぎて損ということはないですから」


 店の外に出ましたとトールは繰り返した。


「偽タキ氏はなかなか出なくて、これも偽の連絡先だったんだろうかと思いましたが、〈クレイフィザ〉ですと何度もメッセージを残していたら、五回目で出てくれました」


「五回? トール、しつこいね」


「茶化すなよ、ライオット」


「だってしつこいじゃん。五回も続けてかけるなんてさ」


「急いでいたんですから仕方ないじゃありませんか。それに、五回でやめるつもりでしたよ」


 トールは言い訳をした。


「僕は〈カットオフ〉の店主がきていることを話しました。〈サンディ〉の製造者で、あなたに会いたがっているようだ、と」


「そんなこと、言ったのか?」


「泥棒なら逃げるじゃん、そんなの」


「マスターが彼を信じていましたから。僕も信じました」


「甘い」


「トール、甘すぎ」


「ええ?」


 年長の姿をした弟ふたりに言われて、兄は顔をしかめた。


「そうですか?」


「まず、マスターを美化しすぎ」


「あれは面白がってるだけ」


「リンツェロイドに恋とかさー、確かにフェティシストはいるけど、まじで惚れて泥棒したならかなりのフェチだけどさ、ここで捕まっても何のメリットもないでしょ」


「人間の女が相手ならな、『私のためにそこまで』なーんてこともあるかもしれないが、リンツェロイドだぞ、リンツェロイド」


「そう、言いますけど!」


 トールはばんとテーブルを叩いた。


「――きたんですよ、彼」


 偽タキはトールと待ち合わせて、改めてジェフと名乗った。本物のタキとは友人で、彼を陥れるようなつもりはなかった、サンディを紹介してくれたのが彼だったから、ふと顔が浮かんで、ついとっさにそう名乗ってしまっただけだと説明した。


「それで?」


「そいつが盗んだのか?」


「いえ、少し違うようでした」


 確かにジェフは〈サンディ〉に一目惚れしていた。だが一介の掃除夫にはリンツェロイドを買える金などなく、フロアを通るたびに彼女を眺め、誰もいなければそっと話しかけるだけしかできなかった。


 ロイドに恋をしただなんて自分でも認められなくて、タキに相談もできなかった。もし相談をしてくれたら利率のほとんどない分割プランを用意してやったのに、というのはのちのタキ氏の言だったが、生憎と彼らは話し合いを持たなかった。


「ミスタ・ジェフは……目撃者です」


「何だって?」


 ライオットは目をしばたたいた。


「――犯人は、ほかにいた?」


「当たりです」


 トールはアカシにうなずいた。


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