第17話 お断りします
「失礼ですが」
「うん?」
「ミスタ・リンツは同性愛のご趣味をお持ちで?」
真顔でシャロンは問い、彼は目をしばたたいた。
「どうかな。ないと思うね。少なくとも性癖テストでは出ていないよ。ロイド・フェティシストだろうと言われることはあるけれど、そのつもりも傾向もないね」
「そうですか。失礼いたしました」
「ああ、彼を好みだなんて言ったからか」
店主は苦笑した。
「シャロン、君はいつもそうして、君のマスターに近づく男も女も、チェックしているのかい」
「可能な限りは、しています。お互い、不幸になりませんように」
「不幸だって」
「ギャラガーには、ロイド・フェティシストの
実に冷静にシャロンは言い放ち、サンディを抱きかかえて話しかけ続けている彼女のマスターを見た。
「成程ね」
彼はまた言った。
「ミスタ・ギャラガー。よろしいですか」
「ミスタ・リンツ!」
ギャラガーはぱっと顔を上げると店主に近寄り、その手を取った。
「有難う! この子を保護してくれて!」
「たまたまうちに、依頼人がきただけですよ」
「そうだ、その依頼人」
手を離すとギャラガーは真顔になった。
「通信ではそのことを話さなったようだが、話してもらうために俺はきた。そいつは何者だ。どんな男だった」
「『男』……と仰る理由は?」
「一般論だ。転売は難しいだろうから、リンツェロイドに惚れて妙なことを考えた馬鹿な男だって可能性が高い。イカレたフェティシストかもしれん」
「女性だって女性型に心を惹かれることはあるでしょう」
「まあ、あるだろうが」
男だろうとギャラガーは言った。
「防犯カメラくらい、あるんだろう。見せてくれ」
「お断りします」
「……何?」
「お断りします、と言いました」
「聞こえたよ」
「それなら、聞き返さないでいただけますか」
「――リンツ! 何だ、あんた、その言い方は!」
かっとなったようにギャラガーは叫んだ。
「ギャラガー、落ち着いて」
「落ち着けるか!」
彼は秘書ロイドに怒鳴った。
「おいリンツ、そいつは犯罪者だぞ。いや、盗み出した当人じゃなかったとしても、犯人に繋がる人間だ。サンディはこうしてここにいるが、ジュディスのことを思うと俺はいてもたってもいられん!」
「彼はずいぶん、無知でしたよ。リンツェロイドの動力源すら知らなかった。ステッパーのことも知らなければ、彼女が水分を摂取しないことを不審にも思っていなかった。つまり、燃料電池だけで彼女を使っていたんです」
「だから、何だ」
「ですから」
ゆっくりと店主は言った。
「ミスタ・タキがサンディを二体目のリンツェロイドとしていたとは、とても思えませんということです」
「……タキ? タキだって?」
「お心当たりが?」
「うちの秘書の名前だ」
人間の、とギャラガーはつけ加えた。
「おや」
「だがまさか、タキが盗んだはずはない。だいたい、あいつならリンツェロイドの使い方くらいよく知ってるし、パスワードだって判ってる」
「でしょうね。偽名だと感じました」
さらりと店主は言った。
「名乗るときにずいぶん目が泳いでいました。それに『タキ』というのはイーストタイプの姓に聞こえますが、彼はイーストタイプには見えなかった。もちろん、この時代です。西も東も、相当混ざっていますがね。ある程度は判るでしょう」
淡々と言う店主に、ギャラガーは顔をしかめた。
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