第14話 仮定の話をしてもしょうがない

「まあ、それはとりあえず、いいや」


 気持ちを切り替えて、ライオットは首を振った。


「それで? くんの?〈カットオフ〉の人」


「ええ、すぐこちらに向かうと言っていました」


「依頼人の素性は? ばらしたのか?」


「教えてほしいと頼まれましたが、マスターは『言えません』と」


「へ? 何で」


「何でって、お前……当然だろ」


 アカシはじとんとライオットを見た。ライオットは顔をしかめた。


「だって、盗品だろ。泥棒じゃん。依頼人ったって、正式に契約結んだ訳でもないんだし。『知らなかったんです』って言って〈サンディ〉渡して、〈カットオフ〉に丸投げしちまった方がいいんじゃないの? 上層機構ノートにでも入られたらどうすんだよ、ここ。やばすぎるでしょ」


 「ノート」と呼ばれるのは、国の規模を越え、惑星レベルで世界を管理する上層組織だった。と言ってもそれは上層すぎて、各国の政策にすら滅多に口を出さず、一般の人間に接触してくることはまず有り得ない。


「ノートまで介入なんてしてくるもんか」


 よって、アカシの発言はもっともだった。


「せいぜい、警察だろうよ」


「それだって充分、やばいでしょ」


「マスターは〈カットオフ〉の人と顔を合わせて話をしてからと思っているみたいです。それに……」


「それに?」


「『タキ』という名前も、住所もIDも、たぶんみんな出鱈目だと」


「――あの、おっさん」


 アカシはうなった。


「判ってて、受けたのかよ? 何考えてんだ」


「マスターが何考えてるかなんて、俺らに判るはずないだろ。いや、ちょっとは判るかな」


 ライオットはにやりとした。


「おそらく」


「その方が」


「面白そうだ」


 三者はそれぞれ、楽しげに、呆れたように、嘆息混じりに、台詞を吐いた。


「〈カットオフ〉は現状、〈クレイフィザ〉を協力者と認定してくれています。でももしマスターが強固な態度を取ったり、『タキ』氏のことを黙ったままだったりすれば、警察沙汰にもなり得ます。ふたりとも、言動には充分、気をつけてくださいね」


「スイッチ切って寝てりゃいいんじゃないの」


「見られたらどうすんだよ。却ってばれるだろうが」


「えー? そこまで踏み込まないでしょ。犯人って訳じゃないんだし」


「まずいのはトールだろ。お前、未成年に見えるんだから。保護者とかIDとか訊かれたらどうすんだ。マスターの息子ってことにしたって、調べられたらすぐ」


「爪を外して、個体識別番号に見えるシールを貼っておけば、とりあえずは問題ないでしょう。自作ロイドを接客用にする個人工房は少ないですが、皆無じゃないですし」


「……お前、それでいいの」


「僕は一向に。マスターが嫌がりますけどね。僕が『ロイドのふり』をすると」


 少年ロイドは少し笑った。


「一時的に『ロイドのふり』して、あとでばれたらもっとまずいんじゃ」


 アカシはなおも続けたが、ライオットが片手を上げた。


「まあ、仮定の話をしてもしょうがないよね」


 さらりと青年は言う。


「アカシも気が小さいなあ」


「何だとこの野郎。慎重と言え」


「臆病」


「てめえ」


「そこまで」


 またしてもトールがとめた。


「今回はライオットの言う通り。いまからそこまで心配しても仕方ありません。〈カットオフ〉とマスターの出方を見守りましょう」



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