第13話 抜き打ちテスト

「出鱈目じゃないですか」


「ほぼ事実だよ。見積もりでも依頼は依頼。所有証明書をなくしたと言うんだから、仕様書も持っていないだろう」


「……『なくした』なんて怪しいと、思ってるくせに」


「私がそんなことを言ったかい?」


「言ってませんけれどね」


 トールは口の端を上げた。


「判りました。マスターの名前で出しますか?」


「うん。そうしてくれ」


 言われるとトールは素早く検索をかけて〈カットオフ〉の公開メールアドレスを見つけ、丁寧な文章を綴って素早く送信した。それから彼らが少し話をしていると、端末から簡素なメロディが鳴り出した。


 〈トール〉は首筋に手を触れた。彼が信号を送受信すると、メロディはやむ。


「はい、〈クレイフィザ〉です。……え? あ、はい。確かに、送りました。つい、さっきですけど」


 トールの返答を耳にして、マスターは片眉を上げた。


「ずいぶん、早いね」


 送信から五分も経っていない。だがトールの反応からして、通信の相手が〈カットオフ〉であることは明らかだった。


「トール」


 マスターは指で、音量を上げる仕草をした。トールはうなずいて通信パネルのところまで行くと、スピーカーを切り替える。


『――にお伺いします。御社の営業は何時まででしょうか?』


 女性の声が部屋に響いた。


「え? あ、いえ、仕様書を送っていただければ、それでいいんですが」


 困惑してトールは返した。


『お伺いします』


 女性は繰り返した。


『われわれは〈サンディ〉の行方を探していたんです』




 アカシは目を丸くした。


「じゃ、まじで盗品なのか!?」


「何だ。それじゃ、大手ロイドによくある、ただの防犯ロックじゃん。販売前に余所で稼働させられたら、起動とめるって言う。真っ当なプログラム」


 くすくすとライオットが笑う。


「気づけよなあ、アカシ」


「き、気づくかよ! 話に聞いたことはあったが、まじでロックかかったやつなんて見たの初めてなんだし」


「聞いたことあったんだろ。なのにスルー。なっさけねえ」


「こんの野郎」


「ライオット。言い過ぎ」


「ごめんごめんトールちゃん」


 笑いながらライオットは両手を合わせた。


「謝罪の相手は僕ではなく、アカシです」


「ごめんなさいっ、アカシお兄様っ」


 ライオットは、とてもではないが真摯とは言えない謝罪をした。しかめ面の「次兄」を前に「三男」はまた笑う。


「そう言って笑っていますが、ライオット。あなたは〈サンディ〉が水分を摂取していない様子だということは気づいたんですか?」


「ん?」


「普通は、自分で補給しますね。でも彼女はしなかった。これもロックによるものですよ」


「……ああ、そうかあ。何か、水が少ないなとは思ったんだけど」


「――てめえ!」


「アカシ」


 今度はトールは、アカシをとめた。うなるような声を発して、アカシは浮かせた腰を下ろした。


「まあ、もっとも責められるべきは、マスターだしな」


 それから彼は呟いた。


「マスターが? 何で?」


「気づいてたんじゃないかと、思うからだ」


「防犯ロックに? まさか」


 ライオットは肩をすくめた。


「それなら何で、言わないのさ」


「――だよ」


「え?」


「テストだよ! 俺もお前も、マスターの抜き打ちテストに落ちたの!」


「……あ、そういうことか」


 目をしばたたいてライオットは納得した。


「まずいなあ、ちょっと精進しないとね」


「気合い入れんと、二軍降格だぞ。俺はグレンに、お前はキースに取って代わられる」


 顔をしかめてアカシは言った。


「うーん」


 ライオットも似たような顔をする。


「気合いって、どうやって入れんの?」


「……それは難しい問題だ」


「まあまあ」


 トールは取りなした。


「ここしばらく、メインはあなたたちじゃないですか。メンテナンスも時間かけてますし、いきなり選手交代はしませんよ。……たぶん」


「『たぶん』が」


「余計」


 弟たちは息を吐いた。


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