第41話 2つの光

「デイビッドの魂を呼んであげる。

 魂を呼ぶには、スザンナさんのデイビッドへの想いがとっても大切なのと、もうひとつ、スザンナさん自身も自分の肉体を手放すことが必要なんだよ」


 死者の魂を呼び出すには、いくつかの条件があるという。ひとつは、その魂に対する強い想い、愛する心。その想いが死者の魂を引き寄せる道を作る。

 もうひとつは、呼び寄せる者の魂の力。スザンナさんの魂の力の強さだ。


 オルト兄ぃが言うには、スザンナさんの魂の力は強くはなく、デイビッドさんの魂を呼べたとしても、この場所に死者の魂がとどまっていられるだけの力はないらしい。


 でも、肉体を離れた魂は、開放されるから魂本来の力を発揮できる。たとえ、力の弱い魂でも、十分に死者の魂をこの場にとどめておける力があるのだという。ただし、自らの意思で肉体を手放した魂は、帰る場所をなくして、この世界に永遠と漂うしかできなくなるらしい。そうすると、寂しさや孤独から、いつしか悪霊となってしまい、禍わざわいを起こす存在となってしまうという。


 そうならない、そうさせないために、オルト兄ぃ曰く、魂を回収、食べるのだと・・・・・・


 呼び寄せられた魂は、とどまらせていた力がなくなると、また元の場所、魂の里のようなところへ帰っていく。



 オルト兄ぃ・・・・・・魂を食べるって・・・・・・

 なんだか本当に、オルト兄ぃが怖い存在に思えてきた。


 もしかしたら、アル兄様もオルト兄ぃも悪魔・・・・・・?



「オルトさん、私は魂を食べられても構いませんから、デイビッドを呼んでください!」


「わかった。スザンナさん、デイビッドを強く想って・・・・・・」


 オルト兄ぃがそう言うと、スーおばさんの額に手を当てて何かをつぶやいた。


 スザンナさんの体全体がぽわっと淡く光ると、その光はオルト兄ぃの手が置かれた額にだんだんと集まってきて、より強い光の塊となった。

 オルト兄ぃがゆっくりと額から手を離すと光の玉もオルト兄いの手に導かれるように浮き上がり、しばらくスザンナさんの体の上をぐるぐると回っていた。


「さぁ、デイビッドを呼んで! スザンナ」


 オルト兄ぃの声とともに、光の玉は目を開けていられないほど光り輝く。


 光が静まり、そっと目を開けると、そこにはもうひとつの光の玉があった。



 2つの淡く光る玉はゆっくりと人の形へと姿を変えた。ひとつはスザンナに、そしてもうひとつは、デイビッドに・・・・・・


「あぁあああー!! デイビッド、会いたかった、ずっと会いたかった!」


「スザンナ! 君かい? 本当にスザンナかい?」


 2人は離れ離れになってしまった時を埋めるかのように、しばらく強く抱き合っていた。


 私は目の前で起きたことが信じられなかった! こんなことって・・・・・・



 オルト兄ぃは私の肩をたたき、2人から視線を外すように、スザンナさんの肉体に寄り添うメイちゃんに目を向ける。

 どうやら、メイちゃんはずっと眠っているらしい。


「オルト兄ぃ、スーおばさんはどうなっちゃったの?」


「スザンナさんの魂は自分の意思で肉体を離れた。ここにあるスザンナさんの体にはスザンナさんの意識のかけらもない。肉体の命はあるけれど心はない。だからもう痛みを感じることも肉体の苦痛を感じることもない」


「オルト兄ぃの魔法なの?」


 私はおそるおそる聞いた。


「いや、魔法とは違うよ・・・・・・」

 オルト兄ぃはそれ以上は言わなかった。


「スザンナさんが痛みと苦痛から解放されたから、よかったでしょ?」


 よかったかどうかなんて、私にはわからなかった。


 人を助けたり救ったりするはずの神様に仕える審問官様や神父様が、どうしてこんなひどいことをするのかもわからなかった。



 私には、わからないことだらけだ・・・・・・




「オルトさん、いえ、オルト様、デイビッドに会わせていただいて、本当にありがとうございました。私はもうこのまま消えても悔いはありません。

 私の魂をオルト様に捧げます。本当にありがとうございました」


 スザンナさんは今まで見た中で一番きれいに見えた。


「オルト様、できることなら、俺の、私の魂も捧げます。スザンナがいない世界に生を受けるつもりはありませんから!

 スザンナとこうして会えただけで、私はもう何も望むことはありません。


 そして、オルト様にお願いするようなことではないと思いますが・・・・・・

 できることなら、私たちの2人の子ども、メイをレイスのところに無事送り届けていただけないでしょうか。

 お願いするのにお渡しできるものは私の魂しかありませんから! 

 どうか私たちの最後のわがままをお聞き届けください!」


 デイビッドさんとスザンナさんの魂は、スーおばさんの体に寄り添うようにして眠っているメイちゃんに優しい眼差しを向けて、そっと手を差し伸べてメイちゃんに触れようとした。でも、魂となってしまった2人は、メイちゃんに触れることも抱きしめることもできなかった。


「愛しているわ、メイ」


「会えてよかった。こんなにかわいい女の子になって……」


 2人とも愛おしそうにメイちゃんを見つめると、2人で少し寂しそうに微笑んでいた。


「オルト様、本当にありがとうございます。私たちはもう悔いはありません!」


 デイビッドさんが力強く言うと、スザンナさんも大きくうなずいた。



「デイビッド、スザンナ、ともに私の中でひとつになるがよい」


 オルト兄ぃが両手を前に差し出すと、2人の魂は溶けるようにして人の形をくずし、ふたたび淡く輝く光となった。


 2つの光はそのままオルトの手の上に乗るように引き寄せられていく。オルトはそのまま両手を高く上げると、2つの光の玉は形を失い、キラキラと流れるようにオルトに吸い込まれていった。








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