第31話 ブリドニク(5)
あれ・・・?ここって・・・・・・スーおばさんの家。
朝目覚めたとき、一瞬、私がどこにいたのだったっけ? と思う。
アル兄様に助けてもらってから、いろんなところで起きたよね、と思わず笑ってしまう。
ここは、メイちゃんのお兄さんレイスさんの部屋。
画家見習いで王都に暮らしているという。
部屋には森の絵が飾ってあった。レイスさんが描いたのかな? 小さな絵だけど、生き生きした森の緑の命が見えるような絵だ。小さな動物たちがたくさん暮らしているような森。
きっと西の森だわ・・・・・・そう思った。
身支度を終えてベッドを整えていると、枕とおふとんのカバーには青い鳥が刺繍されているのが目に入った。これはスーおばさんが、きっとレイスさんのために刺繍したんだろうなって思う。スーおばさんがお兄さんのことを思いながら一針一針刺繍している姿を想像する。
私もアル兄様やオルト兄ぃのために、きれいに刺繍できるようになったらいいなって思った。
「おはよう、マルルカちゃん。昨日はよく眠れたかしら?」
「おはよう、マルルカちゃん!」
スーおばさんとメイちゃんに「おはようございます」ってあいさつする。
「水を汲みに行ってくるから、マルルカちゃんは朝ごはんを食べていてね」
スーおばさんは水汲み桶を持って階段を下りて行った。
「はい、これマルルカちゃんの分! あたし学校に行く準備をするから、ゆっくり食べてて」
メイちゃんは、ミルクティの入ったマグとパンを1切れ持ってきてくれた。
「ありがとう」
パンを手に取る。簡単にちぎれないくらいに硬い!
「違うよ。パンはミルクティに浸して食べるんだよ。朝は残っているパンだから硬いよ」
メイちゃんは私の手からパンをさっと取ると、ドボンとマグカップのミルクティの中に入れてから、部屋に上がっていってしまった。
ミルクティで濡れたパンを取り出して口に運んでみる。まだ全然硬い。
もう一度ミルクティに浸したけど、パンの酸味とミルクティってあんまり合わない気がする。
パンが柔らかくなる間、何もすることもないので、開け放たれた窓のほうへ行って外を見ることにした。建物がくっついているように見える。ここはだいたい3階建てだ。きっとスーおばさんのおうちと同じようなつくりなのかもしれない。
2階だから通りの様子がよく見える。スーおばさんみたいに両手で水汲み桶をもって近くの水汲み場に行く人、大きなたらいに洗濯物を入れて水汲み場に行く人、多分仕事場に行く人だろう、ちょっと足早に歩く男の人。パンを抱えている人もいた。あの人はきっと焼きたてパンを食べたいんだろうな。いろんなことを想像しながら見てるのって案外楽しい。
「マルルカちゃん、パン柔らかくなってるよ。ミルクティが冷めちゃうとおいしくないから、早く食べたほうがいいよ」
いつの間にかメイちゃんが降りてきていた。
メイちゃんの声で朝ごはん中だったことを思い出して、ミルクティでふやけたパンを急いで食べる。ぬるくなったミルクティは、やっぱりあんまりおいしくないなってちょっと思った。
スーおばさんが水汲み場から帰って来ると、入れ違いのようにメイちゃんが学校へと出かけて行った。
「スーおばさん、私がいる間は私が店番をするから、おばさんはおうちにいて!
わからないことがあったら、声をかけるから」
「マルルカちゃん、いいのよ。無理はしなくて!」
ミルクティでふやけたライ麦パンを無理やり飲み込むと、私はスーおばさんにそう言ってお店に降りて行った。
私がシェルドンさんからスーおばさんを守らなくっちゃ!
お店の掃除をしているとスーおばさんが下りてきた。
「おばさんは、今、来ちゃダメ! シェルドンさんがやってくる時間でしょ?」
「マルルカちゃん、あなたが何を言われるか・・・・・・」
スーおばさんが心配そうに私を見ている。
「大丈夫だよ! アル兄様も言ってたでしょ? 頑丈だって!」
スーおばさんに小さな力こぶを見せてあげる。あんまり頑丈そうに見えないか。
でも、スーおばさんを階段のほうへと押しやって、「本当に大丈夫だから、絶対降りてこないで!」
「マ、マルルカ・・・ちゃん・・・」
スーおばさんは困ったような顔をして2階へと上がっていった。
お店の扉を開けて外の空気をいれる。お店の中のハーブの香りが外に流れていく。それからお店の中と外の通りをほうきで掃いてきれいにしていった。
昨日スーおばさんに教えてもらった場所と種類を思い出しながら商品を確認していく。
「おはよう、スザンナ。困りごとはないかな? おや? 君は?」
低い男の声に振り返ると、そこには指輪をいっぱいつけているシェルドンさんがいた。
「おはようございます。昨日からお手伝いをしています、マルルカと言います」
できるだけ感情を出さないようにシェルドンさんに挨拶をした。
「ふむ・・・・・・ マルルカ・・・ちゃん? どこの子だい?」
「森の薬屋です」
「あぁ、ガレタんとこでスザンナと一緒に食事をしていた男のところの子か。
なかなかかわいい顔をしているじゃないか」
シェルドンさんはニヤニヤしながら私に近づいてきた。
「ご、ご用は何ですか? 何かお探しの物はございますか?」
私は1歩後ずさり、何とかシェルドンさんに話しかけることができた。
「私のことを知らないのかな? マックス・シェルドンだ。街の人たちに困り事がないか、街の様子を見て回っているんだよ。
スザンナが大変な思いをしているようで、心配で様子を見に来てあげているんだよ。
君も困ったことがあったら、私がすぐに助けてあげるからね」
私が1歩下がるとシェルドンさんがニヤニヤしながら1歩近づいてくる。
気持ちが悪い!!
「困っていることはございません! ご用がないのならお引き取りを……」
「あら、あなた。朝早くからこんなところに・・・・・・」
私がシェルドンさんから逃げるように応対していると、甲高い声の女の人がお店に入ってきた。
「げっ!・・・・・・エリザ! お、おまえ、何をしに来た!」
「ヘリオトローザのサボンを買いに来たのよ。ここでしか買えないのよ。
あなたこそ何をしていらっしゃるの? そんな小さな子を口説いているのかしら?」
「ちがう、ちがう! いつもの見回りだ! 私は他にも行くところがあるから。
マルルカちゃん、また来るね」
シェルドンさんはエリザさんがやってきたことで、慌てて店を出て行った。
ちょっと助かったけど、一難去ってまた一難?
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