第32話 エリザ様
エリザさん? シェルドンさんの奥さんみたい。赤い口紅のきれいな人だ。
ブロンドの髪を高くアップにして赤いルビーのような髪飾りをつけている。
赤紫のドレスは光沢のある生地でシルクかしら? たぶん、オルト兄ぃが「計算を間違っています」っていいそうな着こなしだと思う。胸の谷間を見せつけるように大きく開いた襟ぐりと肩から大きく外した袖は下がりすぎていて、なんかだらしない感じだ。
ドレスをちょっと引っ張ったら、おっぱいが飛び出してきそう。
これがオルトの言う「下品です」っていうやつかしら?
「スザンナはいるかしら? それとヘリオトローザのサボンを3つとポロ茶をいただける?」
「お品物はご用意いたします。スザンナおばさんにご用ですか?」
「スザンナを慰めにきたのよ。街の人たちからひどい言われようをしていると聞いて、気の毒に思って・・・・・・」
優しそうな口調でいうエリザさんの言葉を信じていいのかしら? あのシェルドンさんの奥さんだし……
ちょっと悩んでいると、上から足音が聞こえてきて、スーおばさんがお店に下りてきた。
「エリザ様、ご無礼を……。少し家の片づけをしておりました」
「あらぁ、スザンナ、顔色が悪いわー。少しやつれてる感じだわ。
ちゃんと食べているの?」
「食べるも何も、シェルドンさんのせいで街の人がいじわるをして、傷んでいるものしか売ってくれないんです!」
エリザさんの言葉に、私は思わず声を上げた。
「マルルカちゃん!!」
スーおばさんが私を睨む。
「・・・・・・うちの主人のせい? 主人が何かをしたという証拠でもあるのかしら?
まぁ、子どもの言うことを信じる必要はないけれど、街の人たちには、私からちゃんとしたものを売るようにちゃんと言っておくわ。安心して、スザンナ」
エリザさんも私をキッと睨んだけれど、すぐにスーおばさんに優しく声をかけた。
「すみません。ブリドニクに来たばかりの子で、ちょっと勘違いしたみたいなので、お許しくださいましね。
マルルカちゃん、エリザ様にちゃんとあやまってちょうだい」
スーおばさんはエリザさんに謝ると、私に少しきつい口調で言った。
「ごめんなさい。エリザ様」
私が余計なことを言ったばかりに、スーおばさんに迷惑をかけたのだと思うと申し訳なくなる。でも、これで街の人たちがちゃんとしたものを売ってくれるのならそれでいいじゃない! って思った。
「いいのよ。気にしないわ。子どもの言うことですもの。
それより、少しあなたとお話がしたいの。上にあがらせていただいてもいいかしら?」
エリザさんがそういうと、スーおばさんは「お店番をお願いね」と言って、エリザさんと一緒に2階へ上がっていった。
大丈夫かな・・・・・・スーおばさんとエリザさんが上がっていった2階が気になる。ちょっと心配。
エリザさんの甘ったるい香水で気持ち悪くなりそうだったから、扉を開けて換気した。間違えて香水瓶をこぼしてかぶっちゃったのかしら?
オルト兄ぃがやっちゃいけないって言ってたことを全部やってる人だ。
スザンナおばさんとエリザさんが2階に上がっている間、リモリス茶を買いに来た人が3人くらいいた。
これから暑い季節になってくるから、最近は気温も高くなってくる。スッキリとしたレモンのような香りのリモリス茶は、冷めてもおいしい。本当は氷魔法で冷やしたほうがいいのだけど……。
疲労回復にも効果があるからこれからの季節は大人気だ。今度、オルト兄ぃにもっとリモリス茶をもってきてもらうことにしよう。
そんなことを思いながらも2階をチラチラと見ながら、お店番をがんばる。
しばらくして、スザンナおばさんとエリザさんが下りてきた。
「エリザ様、ご心配をおかけしました。お心遣い感謝します」
「いいのよ。気にしないで。あなたに元気になってほしいだけだから」
スザンナおばさんの顔が少し寂しげに見える。
大丈夫かなぁ? 何か嫌なこと言われたのかなぁ?
「エリザ様にお買い上げされた品物をお渡ししてお送りしてあげて、マルルカちゃん」
私が準備してあった品物を渡すと代金を支払ってくれた。それからお店の入り口までお送りすると、私をちょっと睨んで、「ここでけっこうよ」と言ってエリザさんはお店を離れて街の雑踏に紛れていった。
「マルルカちゃん、あなたが優しい子なのはわかるけど、初対面の人に突然あんなことを言ってはいけないわ。
エリザ様は私のことを心配していらしてくださったのよ。それにいつも買ってくださる大切なお客様なの」
「ごめんなさい、スーおばさん。
私、またスーおばさんがいじわるされるんじゃないかと思って・・・・・・」
「ありがとう。でも、そんなに心配してくれなくても大丈夫よ。
それに、今日はシェルドンさんの顔を見なくてもよかったし……。マルルカちゃんのおかげだわ。
あなたはいい子・・・・・・ 優しい子・・・・・・ 大切な私の娘よ」
スーおばさんはそっと私を抱きしめてくれた。
スーおばさんのふんわりとした優しい香りに包まれて、なんだかとっても安心する。
スーおばさん、あったかい。ずっとこうしていてもらいたいくらい。
「スーおばさん、ずっとこうしていて・・・・・・」
「甘えっ子さんね。マルルカちゃんは・・・・・・」
少しの間、スーおばさんを一人占めした。
メイちゃん、ごめんね。ちょっとの間ね!
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