第23話 転移

 いつもの朝のようにメイドさんに湯あみさせてもらって着替えさせてもらう。

 大好きな水色のエプロンドレス!!

 それからアル兄様に買っていただいたモスグリーンのリボンを三つ編みにした薄茶色の髪に結んでくれた。


「おはよう マルルカ! ちゃんと茶色のマルルカになってるね。

 あっちでは元の姿に戻っちゃ絶対ダメだからね!」

 オルト兄ぃだ。執事のオルトは本当にやめたみたい。



 お部屋を出ると、アル兄様が待っていた。

「マルルカ、あのおうちに帰るよ! 忘れたことはない?

 しばらくの間は、マルルカは帰ってこれないからね」

 私はコクンと大きくうなずいた。

 異なる世界を渡ることは人の魂に大きな負担がかかるらしい。だから何度も簡単に往復できないんだよってアル兄様が言った。




 アル兄様とオルト兄ぃの3人で転移の魔法陣がある部屋に行く。

 でも不思議だよね。魔王城でずっと暮らしてたなんて・・・・・・

 しばらく来ることもないのかなぁと思うと、ちょっと寂しくなる。

 メイドさんにありがとうってちゃんと言ってくればよかった。それから、おいしいごはんを作ってくれてた人たちにも・・・・・・


 どこを歩いたかよくわからなかったけど、私たちは魔法陣の前にいた。

 とても大きな魔法陣で部屋いっぱいに広がっている。複雑な模様が刻まれていて、アル兄様が片手を上げて何か言いながら魔法陣に魔力を流し込んでいる。


 これだけの魔法陣に魔力を流せるなんて!

 アル兄様は無限に魔力があるのではないのかしら?

 ・・・・・・さすが、魔王の張りぼてを作った人だと思う。 

 だんだんと魔法陣が光り始めてまぶしいくらいになった。


「準備はできたよ。さぁ、行こう! 

 向こうについたら、マルルカはしばらく目が覚めないかもしれないけど、転移の負担が魂にかかる影響だから心配しないでね。今度こそ本当に魔法のない世界ノージスに転移だ」


 アル兄様はそう言って、私の手を取り魔法陣の真ん中に歩き出した。その後ろをオルト兄ぃがついてくる。

 3人が真ん中にいることを確認したアル兄様は両手を高くあげる。魔法陣の輝きがアル兄様の手の動きに呼応するかのように上にどんどん伸びていき、より一層キラキラと白く輝く。


 私たちは光に包まれていた。

 とてもきれいな魔法だ!!

 光を感じているうちに、いつの間にか私は意識を失っていた。








*******************************






 森の匂いがする。


 私、アルさんのおうちにいる!!

 窓が開いていて、気持ちのいい風が入ってくる。

 小さな部屋だけど、木と緑の匂いがする気持ちのいい場所・・・・・・

 あの時と何も変わっていない。

 ベッドから飛び降りてドアを開けた。


「おはよう、マルルカ。目が覚めたんだね」

 あぁぁー アルさんだ!!

(今は、アル兄様だけど、やっぱりアルさん!)


 それと、オルト兄ぃもいた!!

「おはよう、マルルカ。2日間寝てたからちょっと心配したよ」

 なんだかとっても嬉しい!!


 焼きたてパンの匂いとコーヒーの香り・・・・・・

 オルト兄ぃがいるから、コーヒーなんだね。

「おはようございます。なんかこのおうちでコーヒーの香りって思わなかった。

 今度、私がオルト兄ぃにコーヒーをいれてあげるね」

「その前に、コーヒーのいれ方を、僕がマルルカに教えることになるんでしょ?」

 オルト兄ぃが、クククっと笑ってる。


「顔を洗ってから朝ごはんにしようね」

 アル兄様はそう言って、水差しと手ぬぐいを渡してくれた。


 顔を洗ってからテーブルにつくと、アル兄様とオルト兄ぃが私を待ってくれていた。

「アル兄様、あのときとおんなじ! 何も変わっていない大好きになったおうち!」

「この家は時を止めていたからね。でも 違うこともたくさんあるよ。

 この家は、前は時の狭間にあったけど、今は本当に魔法のない世界、ノージスにある。今度は家を出てもちゃんとブリドニクの街に出る。

 それからオルトがいる。3人になった。

 そして、マルルカは所作がきれいになった。オルトのおかげだ」


 アル兄様は私に熱々のスープを渡してから、一緒にテーブルを囲んだ。

「僕に感謝してよー。でも、まだまだだから、もっと教育しなくっちゃね! 」

 オルト兄ぃはパンをモグモグしている。本当に私に「行儀が悪い」って言ってたオルト?


 こうして魔法のない世界、ノージスでの新しい暮らしがスタートした。




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