第22話 マルルカの決心(2)

 アルさんもオルトも、あたしをそっとしておいてくれたみたい。


 メイドさんがそっとやってきて、果物やサンドイッチなんかの軽くつまめるものを置いていくと、何も言わずに部屋を出て行った。

 一人でのんびりと広いバスタブで湯につかる。ここにきてからは初めてだ。

 泳げるだろうなーと前から思ってたから「やるなら今だ!」って思うけど、もちろん泳げやしない。

 お風呂から出てくると、冷たい飲み物やクッキーなんかが準備してあった。


 あたしの気持ちを察してくれているのかなーと思うと、心がじんわりしてくる。

 特別何かをするわけでもなくて、ぼーっとしたり、ベッドでゴロゴロしたりして、これまであったいろんなことをいっぱい思い浮かべた。







 外も暗くなったころ、若いオルトが「夕ご飯を一緒に食べよう」と声をかけてきた。

 今日はオルトも一緒にテーブルについて夕ご飯を食べる。

「オルトは、もう執事をやめたの?」

「オルト兄ぃと呼んでー! マルルカ

 もうオルト爺さんはおしまい! アル兄ぃの命令で、マルルカを一通り教育しろって言われてたけど、そのお役目は終わり!  僕の変身ぶりも見事でしょ? 

 本当はね、マルルカと一緒のテーブルについてあげたかったんだよー」

 オルトのキャラが違いすぎる・・・・・・


 やっぱり、みんなで一緒に食べるごはんがおいしい。なんか本当に家族のような気がしてくるから不思議だ。私の心が少しずつほぐれてくる。

「あのね、アル兄様、オルト兄様、聞いてほしいことがあるの」

 私の言葉に、2人は一瞬食事の手を止めて私をじっと見た。

「食事の後、お茶を飲みながらゆっくり聞こう」

 アル兄様の言葉に、オルト兄様もウンウンとうなずいてくれた。



 3人で私の部屋に移動して、アル兄様は当たり前のようにお茶の準備をしてくれる。これもいつの間にか私の日常になっていて、いつものことなんだなぁと思う。

なんか、ホッとする。

 オルト兄様はソファでくつろいでいる。

 執事のオルトと目の前のオルト兄様が同じだなんて、全然信じられないよ。

 本当のオルト兄様ってどんなんだろう? 

 知りたい気もするけど、ちょっとコワイ。


 アル兄様は私の前にティーカップを置き、それからオルト兄様のとなりに座った。オルト兄様はコーヒーが好きみたい。お砂糖を1匙入れてスプーンでくるくる回している。


「あのね、私、いろいろ考えたんだけど、やっぱり魔法のない世界のアルさんのおうちで暮らしたい。

 最初はアル兄様と一緒にいたいからあの場所がいいと思った。でも、アル兄様とずっと一緒に暮らすのは無理なんだなぁってわかった。

 昨日、ハリーと会ったでしょ? 私、魔力が暴走してて、オルト兄様が抑えててくれてたんでしょ?・・・・・・

 この世界にいて、またどこかでハリーやデレクと会ったら、魔力をコントロールする自信がないの。感情を抑えきれない。2人を谷底に落としてやりたいっても思ったんだよ・・・・・・

 この世界にいたら、またきっとそう思ってしまう。アル兄様は命を粗末にしたらダメだって教えてくれた。

 今の私は、2人が生きてることに、2人の命に、感謝なんてできやしない。

 私を谷底に落としたくせに普通に生きてるなんて、殺せるものなら殺してやりたいって思っちゃった・・・・・・

 逃げるのかもしれない。でもあの場所で薬草を育てたりして静かに暮らしてみたいの」


 アル兄様は、カップに目を落とし、それから私にニッコリとほほ笑みかけた。

「マルルカの気持ちはよくわかったよ。君が決めたのならそれでいい。

 逃げたいときには逃げてもいいんだよ。

 前に進むだけがいいことじゃない。

 これからは、自分のために自分の時間をちゃんと生きて・・・・・・マルルカ」


 アル兄様の声を聞いていたら涙が出てきた。

 私、いつからこんなに泣き虫になったんだろう・・・・・・


「覚えていると思うけど、あそこは、魔法のない世界だ。決して人の前で魔法を使っちゃいけない。あの世界の理(ことわり)を壊すことになるから。 約束だよ。マルルカ」

 アル兄様の言葉に強くうなずく。


「それから、この前買った守り石があったでしょ? これはいつも身に着けているんだよ。絶対離しちゃダメだ。必ず君を守ってくれる」

 この前見たときより、ずっと小さいけど・・・・・・?

「この石は特別でね。私の魔力も付与しているから、形も大きさも変わる。指輪でもティアラでも何にでもね・・・・・・。でも形が変わってもマルルカを守ってくれることには変わりないからね! 

 君以外の者が、無理やりそれを所有しようとすれば、その者には死しか与えない。それくらい力のある石だよ」

 アル兄様はそう言うと、キラキラした透明の小さな石のついたペンダントを私に着けてくれた。

(こんな小さなペンダントが、人を殺しちゃうの??)


「それからもう一つ。私はマルルカとはずっと暮らせないけど、しばらくはオルトが君のそばにいる。

 向こうの世界に慣れるまでは、そばにいるから安心するといいよ」


「マルルカ、執事のオルトじゃないから安心していいよ! もうそんなに厳しくしないからね! 

 オルト兄ぃと呼んでいいからね!」


 オルト兄様は、オルト兄ぃと呼ばれたいらしい・・・・・・



 ・・・・・・2人とも、とっても優しい・・・・・・




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