第24話 アルのおうち
数日は薬草の手入れをしたり、お家の中のこと、お掃除の仕方や料理をアル兄様に教えてもらって過ごした。
魔法のない世界は思った以上に大変だった。火はちゃんと火種を残しておかないといけないし、水だって外の井戸から汲んできて台所の水がめに入れておかなければならない。
部屋の灯りも火種からとってオイルやろうそくに灯すし、お料理するのもお湯を沸かすのもそうだ。
つい、魔法を使いたくなる。
前の世界はヤービスというけれど、誰でもほんの少しは魔力を持っているし魔石もある。魔石を組み込んだ魔道具を動かすくらいの魔力があれば、生活に不便はない。魔石に眠っている魔力を起こして使うのが魔道具だ。 保冷箱だったり、釜、コンロ、灯りだったり、いろいろあるし、魔石は魔石屋さんにいけば買える。
魔法使いや魔導士と呼ばれる人たちは、火や水、風、光なんかを作れるけど、たくさんはいない。魔力量が多い人たちが訓練をして魔法を覚えなくちゃできないからだ。
ヤービスは楽ちんだったんだなぁと、本当に思った。
「誰にも見られてなければ、この家の中だけだったら魔法をこっそり使ってもいいけど、ここの暮らし方を知らないとダメでしょ? それにこの世界で暮らすと決めたのだから、この世界の暮らし方で暮らさないとね!」
アル兄様の言う通りだ。
私がここで暮らすって決めたんだから!
それから、お茶やサボンの作り方を教えてもらった。
私用のポロ茶やネモのサボンから作って、それが売り物になるか見てみようっていうことみたい。
雑貨屋さんに持っていく商品はオルト兄ぃが作る。私はお茶とサボンが作れるようになったら、オルト兄ぃから少しずつ他の薬とかも教えてもらうことにした。
まずはポロ茶からだ。
私が大好きなポロ草はすぐ大きくなるみたいで、薬草畑の一角に植えてあった。お茶にするときは花が咲く前の物を摘み取る。花が咲く頃のものは違う使い方があるらしい。
新しく伸びた柔らかい茎を摘んで、よく水洗いをする。それからちゃんと水気を取って、紐でくくって風通しのいい日陰に干しておく。濡れないようにお天気も気にしなくっちゃいけない。
美味しいお茶になるように心を込めて一束ずつ丁寧に家の北側の軒に干していく。
5日程で乾燥してきたので、私が作ったポロ茶をアル兄様とオルト兄ぃに初めてふるまった。
「「マルルカ!!」」
一口飲んだ2人が声を揃えて叫ぶ。
「魔力を流し込んだだろう。効果が高まりすぎて気持ちを落ち着けるどころか眠り薬になってるよ!
これじゃぁダメだ」
「えぇー?」
オルト兄ぃが頭を抱え、アル兄様は笑っている。
「しばらくはマルルカの夜のお茶にしようね」
結局、魔力が流れないように作業をする練習から始まった。
私の薬屋さんまでの道のりは遠いみたい・・・・・・
それから数日後・・・・・・
「今日は午後からブリドニクの街に行こう。いつもお茶やサボン、薬を置いてくれているお店を教えるから、今度はオルトとマルルカにお願いするね。そろそろ、私はここを離れなくちゃならないからね」
アル兄様がオルト兄ぃと私に言った。
「街に行きたいけど・・・・・・それって、アル兄様、もう帰っちゃうから?
オルト兄ぃ・・・・・・おじさんオルトになって、また私を教育するの?」
オルト兄ぃは、もう爺さんにはならないよって笑ってたけど、ちょっと心配。
アル兄様がいなくなるのは寂しい。
ちょっと不安になるけど、このおうちから出るのも初めてだからワクワクする気持ちも抑えられない。
午前中、私は薬草にはまだ触らせてもらえないから、おうちのお掃除や片づけをする。アル兄様とオルト兄ぃは薬草の手入れをした後、雑貨屋さんに卸す品物をチェックしている。
少し時間があったから、疲れを和らげて気分をリフレッシュしてくれるリモリスのお茶をいれて冷たくしてから収納袋に入れておいた。ブリドニクまで1時間くらい歩くって言ってたから、途中で喉が渇くかもしれない。
それからアル兄様がくれたモスグリーンのリボンを結んでみたのだけど、ぜんぜんきれいに結べない。声をかけにやってきたオルト兄ぃがそれを見て、ニヤッとしてきれいにリボンを結んでくれた。
アル兄様もだけど、オルト兄ぃも本当になんでもできる。
まだちゃんと満足にできない私が妹になってていいのかなぁ?
家の外に出ると、アル兄様は背中に大きな荷物を背負っていた。雑貨屋さんに卸す品物が入っているんだと思う。
「アル兄様、私の収納袋に背負っている荷物は全部入るわ。オルト兄ぃの荷物も全部私に任せて! 冒険してたときは食料は全部私が持ってたんだから!」
私は腰につけている収納袋をちょっと自慢げに見せた。
「マルルカ、収納袋は魔道具だよ。魔力の大きさで入る量が変わるけど、君の魔力で作られたものに変わりはないんだよ。 だから、却下だ!」
アル兄様は呆れたように言うと、私の収納袋を取り上げて、オルト兄ぃに預けた。
「アハハ・・・・・・リモリスのお茶まで入れてたんだねー。とっても冷たくしてある」
収納袋を受け取ったオルト兄ぃは、中をのぞきながらケラケラ笑った。
「アル兄ぃ、今回はリモリスのお茶だけは大目に見てあげようよ。あったら、ちょっとだけ幸せになれる!」
アル兄様は、「しょうがないなー」と言いながら、私の頭をコツンとした。
「今回だけだからね。あったら僕も嬉しいし・・・・ネ!」
そう言って、笑いながら私の収納袋を返してくれた。
本当に私って、役に立ってない・・・・・・
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