第17話 新しい1歩へ
いつものようにオルトが起こしにきてくれて、湯あみをしてから朝ごはんを食べる。
いつもと同じ。
「おはよう、マルルカ」
アルさんだ!!
朝食のテーブルにはアルさんがニコニコして座っていた。
「アルさん! 帰ってたの?」
「ちゃんと髪の毛と瞳の色を変えられるようになったんだね。マルルカ、がんばったね!」
アルさんに褒められるとすごくうれしい。
それに、テーブルにいるってことは、一緒に朝ごはんを食べてくれるっていうことだ!
「アルさん、あたしがんばったよね?」
それからアルさんは、頭をポンポンして「うん、いい感じだ」とほめてくれた。
「主様が、お嬢様を子ども扱いしていらしたのですか・・・・・・」
オルトがボソッと言う。
今日の朝ごはんは特別においしかった。オルトがとても厳しかったことや、ちょっと優しかったこととかアルさんといっぱいお話できたから!!
やっぱりごはんは1人じゃなくて、誰かと一緒に食べたほうが絶対おいしい。
オルトも一緒に食べたらいいのに・・・・・・
「これから出かけるけど、今日の夜は少し話をしようね」
アルさんはそう言って、頭をポンポンしていった。
いつものようにオルトからきびしい特訓を受けたけど、アルさんとお話ができると思うと、全然苦にならない。
早く夜になればいいと、いつもよりかなりがんばったけど、オルトからは「魔力が乱れていますよ。少し落ち着いて!」と注意されてしまったけどね。
夕食が終わり、オルトと一緒に部屋に戻るとアルさんが待っていてくれた。
「お茶を淹れようね。オルトも座って」
アルさんが3人分のお茶をカップに注いでくれる。
久しぶりだなぁ。アルさんの淹れてくれたお茶はやっぱり一番だ!
お茶の香りを楽しむようにゆっくりと1口飲む。
「さてと・・・・・・マルルカはよくがんばったね。そこまでできたら上出来だ。
オルトもよくやってくれた。 ありがとう、オルト」
「もったいないお言葉でございます」
オルトはアルさんに一礼をする。
「マルルカ、君はもう姿を変えられるようになったから、もう街の中で暮らしても目立つことはないだろうし、困ることもないだろう。
ここを出て行っても大丈夫だから、もう、好きなところで暮らせるよ。
マルルカはどうしたい?」
アルさんは優しい眼差しで私を見ながら言った。オルトはじっと私を見ている。
「私、アルさんのおうちで暮らしてもいいですか? 行くところもないし、メザク様のところには戻りたくない。ハリーとデレクには会いたくないし・・・・・・」
「あぁ、あの家か・・・・・・あそこは、こことは異なる世界、魔法のない世界にある家なんだよ。
もっと正確に言うと、この場所もあの家も、マルルカがいた間は、ちょっと違う空間に閉じ込めていたんだけどね」
アルさんは また、とんでもないことを言った。
えぇぇぇぇっ!!! ここと違う魔法のない世界? 違う空間?
もう驚かないと思ったけど、やっぱりアルさんは私の想像を超えたことを軽く言う人だ。
「またびっくりした顔をしてる。おもしろいねー、マルルカは」
アルさんはケラケラと笑いながら、あのおうちのことを説明してくれた。
私がちょうどハリーとデレクに谷底に落とされたあの時、アルさんは魔王城からあのおうちの空間と時間をつなぎ移動する瞬間だったらしい。
私がアルさんの展開した転移軸に思いがけず飛び込んできたのだという。
だから死なずに済んだとも言うけれど・・・・・・
それが、私がアルさんに助けられ理由だった。
たとえ空間と時間をつないで転移軸を展開したとしても、普通は飛び込めるもずはなく、魔法を展開した本人が認識した者でなければ時空を渡れないという。
「だから、驚いだのは僕のほうさぁ」
アルさんは笑いながら言った。
あの家のある世界に渡るはずだったけれど、私が飛び込んでしまったことで、転移軸にひずみが起きて、しばらく魔王城とアルさんのおうちが時空の狭間にあったらしい。
私が歪に成長していたこともあって、魔王城とおうちを両方の世界から隔絶した時空の狭間の中にそのまま置いていたから、私は違う時間軸の中で過ごしていたらしい。
だから、私が助けられてから今まで過ごした時は、実際は1か月くらいしか経っていないのだという。
「時間を空間をあやつるって できるの? 聞いたこともないけど、そんな魔法ってあるの?」
「主様だからできることです」
オルトが静かにいった。
マルルカは、賢者と言われていた自分が恥ずかしくなった。いっぱい魔法を使えて、誰にも負けない魔力量は、私が唯一自慢できることだった。でも、アルさんやオルトと会って、私は本当に何も知らなかったんだって気づかされた。
「あの家のある世界には、魔法を使える者がいない。だから魔法を簡単に使っちゃいけないから不便もあると思うよ。それでもあの家で暮らしたいのかい?」
だから、アルさんは魔法を使っていなかったの? 使っててもわからなかったのかもしれないけれど・・・・・・
「ところで、君は、ハリーやデレクを恨んでいないのか? 憎い、殺してやりたいとは思わないのか?」
アルさんはいつもの笑みを消して、表情のない顔をして私を見る。オルトは今までいなかったように気配を消していたけれど、ふと私のほうへ顔を向けて、じっと見ている。
「私、あんまり考えたことなかった・・・・・・
悲しいって思ったけど・・・・・・憎い? 恨む? よくわからない。
もし2人が死んでいても、なんとも思わないと思うけど・・・・・・」
「主様、一言申し上げてよろしいですか?」
オルトがはじめて口を開いた。アルさんは無言で顔を向ける。
「マルルカ様は感情が乏しいですね。私の言い方で言わせていただければ魂に彩り、輝きに乏しい。
食指の動かない魂、未熟ということです」
私の魂が未熟? まずそうな魂って意味がわからない。そんなの初めて言われたよ・・・・・・
アルさんは、私の顔を見てじっと考えている。
「ふむ、あの家で暮らしたいというのであれば、暮らしてもいいだろう。この世界で暮らしたいのなら、住める家は準備しよう。君の好きなところで思うように暮らしたらいい。
すぐに決めなくてもいいよ。ゆっくり考えて」
「あたし・・・・・・ アルさんと一緒にいたい。一緒にご飯作って、食べて、買い物に行って、薬草の手入れをして、おしゃべりして、そうやって、そうやって 暮らしたいの!!」
思わず出た言葉に自分でもびっくりした。
「主様、どうします?」
オルトは面白そうにクククッと笑った。
第1章 完
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