第16話 茶色のマルルカちゃん
「自己学習って言ってもねー」
マルルカは、不意にできた自由時間に途方に暮れる。
何かやるとしたら、髪と瞳の色を変える練習をするしかない。
毎夜練習してみるけどまだできない。
オルトは、魔力を練り上げるっていうけど、まだその感覚がわからない。
衣裳部屋に行き、鏡の前に立つ。
目をギューっとつぶってぱっと開いてみた。
ダメだ・・・・・・
目をカーっと見開いてみた。
目がチカチカする。
そうだ! 水色のエプロンドレスを着てみよう!
あのドレスが似合いそうな女の子を想像してみたらいいかも!
衣裳部屋の中からエプロンドレスを探すことにした。
すごーくいっぱいある。
今まで、見たこともなかったなー これ全部あたしサイズになってるってこと?
お姫様みたいなドレスがいっぱい。ちょっと前じゃぁ、考えられなかった。
いつも真っ黒な三角帽子とローブで姿を隠してたなんて・・・・・・
うぉぉぉおおー なんだこれは!! 布がない?? どうやって着るんだろう?
こんなドレスなんか一生着ないよ!!
あっ!! あった!!! あたしの水色エプロンドレス!!
これが一番好きだ。
着替えて、鏡の前に立つ。
このドレスがとっても似合うかわいい女の子を想像してみる。
髪の長さは三つ編みが結えるくらいで、明るい薄茶くらいの色がいいかなぁ?
なんか楽しくなってきた。
瞳はくるくるよく動く、かわいいリスみたいな感じ!!
なんか体の中を魔力がぐるぐると動いてるのがわかる!!
ジーっと見てたら、ぴたっと動きが止まった。
ダメッ いっぱいもっと想像しなくっちゃ!!
あたしは、アルさんのおうちのお庭でサンドイッチを食べるんだ。
あたしがちゃんと作って、おいしいね!ってアルさんがニコニコしてる。
それから、町に行って買い物をするの。野菜やお肉をアルさんと一緒にいっぱい買う。
「買いすぎちゃったねー」って言いながら、一緒に夕ご飯の準備をするんだ!
あーっ なった!!
薄茶の髪を三つ編みにした茶色のくるくるよく動く瞳をした女の子!!
うれしくってホッとしたら、もういつもの姿に戻っていた。
はぁぁー ずっとっていうのは難しいのねー
「お嬢様、夕食の準備が整いましたので、お越しください」
メイドさんが声をかけてきた。
外を見たら、すっかりと暗くなっていた。
「オルトはどうしましたか?」
「オルト様は、お客様をご接待されていらっしゃいます。今日はこちらにはいらっしゃらないようでございます」
大事なお客様なのねー。魔王がいないと丁重に対応されるのかしら?
ご飯とお風呂の後、また練習を続ける。
ちゃんと想像してどんな子かイメージできなくっちゃだめなのねー!
魔力を練り上げるってしっかりと想像をしてみるってことなのかもだね。
だから、アルさんは話し方もしぐさも全然違うのかー
茶色のアルさんと黒いアルさん
ってことは、茶色のマルルカちゃんは、「あたし」っていうマルルカちゃん!
銀色のマルルカちゃんは「わたくし」っていうマルルカちゃんだね!
それから茶色のマルルカちゃんが何が好きで、何が嫌いか、どんな女の子かいろいろと想像してみた。
なんかちょっとワクワクして楽しくなってきた!!
「オルト 見て!
できたの、できたのよー!!」
次の朝、私を起こしにきたオルトに、茶色の髪と茶色の瞳の私が朝の挨拶をした。
「すばらしい。お嬢様がんばりましたね
今日1日中は、そのお姿でお過ごしください。さぁ、朝ごはんにいたしましょう」
いつもの朝の湯あみの後は、メイドさんにお願いして水色のワンピースを着せてもらった。今日は、アルさんと出会ったときの、森のお家で暮らしていたときのマルルカちゃんだ。
いつもの朝ごはんのテーブルにつく。
あたしは、マルルカちゃんなので、フォーク1本でごはんを食べる。
オムレツはフォークで切る。ソーセージだってフォークで突き刺して食べるんだ。
カップだって両手で大事そうに抱えてお茶を飲む。マルルカちゃんは!!
オルトは驚いた顔をして口を開きかけたけたけど、すぐにニコリとして何も言うことはなかった。
「今日の朝ごはんはとってもおいしい!」
「それはようございました。料理番も増やしたので、もっとたくさん召し上がっていただけますね」
「お料理作ってくれる人増えたの? 今度 お礼をいいたいな。毎日おいしいごはん作ってくれるんだもん」
「わかりました。ただ厨房は忙しくしているので、今度、私が機会を見てお嬢様のお言葉をお伝えすることにいたしましょう」
「うん、ぜひお願い!!」
茶色のあたしは、とっても気分よく朝ごはんの時間を過ごした。
「少し、マルルカちゃんは幼すぎますね・・・・・・」
オルトのぼそっと言った言葉をあたしは聞き逃さないよー
姿を変えたまま過ごすのは、思った以上に大変だった。
少し気を抜くと、元に戻ってしまう。
「意識下で魔法を常時発動している状態ですからね。それがコントロールできなければ、姿を変えたまま過ごすことはできませんよ」
なんとか半日茶色のマルルカちゃんで過ごすことができると、今度は寝た時もマルルカちゃん、魔法を使うときもマルルカちゃん・・・・・・
ハードルが高い!!
「変身魔法とは違うのですよ。その者になるということなのです」
確かに、茶色のアルさんと黒いアルさんは、全く別人だ。
「オルトも姿を変えてるってこと?」
「さて、どうでしょう? 確認されますか?」
「いえ! 結構です!!」
黒いアルさんと初めて会ったあの恐怖はもう感じたくない!!
オルトは楽しそうにクククッと笑った。
「もう少しすれば、主様もお帰りになることでしょう。
それまで、もっと洗練された魔力を扱えるようにいたしましょう。そうすれば、おのずと変えた姿を維持することは難しくありませんから」
それから、私はアルさんが帰ってくるまで茶色のマルルカちゃんで過ごす訓練をつづけた。
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