第15話 オルトのもてなし(2)
(うぉぉぉおおお~~~~
ここってハリーさんたちが魔王を倒した王の間だろ??
すげぇとこに俺たちっているんだよぉ~、
みんなに自慢しなくっちゃだな!!!!!)
トリスは、ひとり興奮が止まらない。
他のメンバーはオルトの提案を怪訝に思うものの、オルトからは殺意も魔気もまったく感じられないことから、
(この余興っていうのが終わったら、食事をふるまってくれて城を案内してくれるのか? ここ本当に魔王城か?)と、呑気に考えてしまう。
「それでは、始めましょうか。 準備はよろしいですか?」
オルトの掛け声にキャルは答える。
「いいわよ。じゃぁ、ベン、最初はあんたからいくよー」
キャルは挑戦的な笑みを浮かべて、ベンに視線を向ける。
「いいぜぇ、俺のトマホークだったら、その矢だったら軽く真っ二つ、いや、粉々だな」
キャルとベンは、部屋の両端に分かれて歩き、態勢を整えた。
キャルは弓矢を一度頭の上まで高く掲げてからゆっくりと弦を引きながら降ろしてくると、ベンに狙いを定めて静かに構えた。
ベンはキャルの構えを見守るように腰を落として床を踏みしめた。ベンは愛用のトマホークを両手で持ち、トマホークの重みを感じながら振り回していくと、だんだんと加速がついて、トマホークが大きくそして速く旋回していく。
「弓矢ははじいてみせるさ。どこからでも来い! キャル! 」
ベンがキャルに声をかけた瞬間、キャルは大きく高くジャンプし、ベンの頭上から矢を放った。
「造作もないことっ!」
ベンはそう言って、旋回しているトマホークをキャルの攻撃を防ぐように向けていく。
トマホークの旋回速度は変わらない。
キャルの放った矢がトマホークに弾かれて、「ベンの勝ちだ!」と思われた瞬間、
トマホークはベンの手から離れ、旋回しながら天井に突き刺さった。
ベンはその場に仰向けに倒れていた・・・・・・
「「「「 ベン!! 」」」」
4人は急いでベンに駆け寄る。
気を失っているのか。まるで眠っているようだ。息はしているし、心臓の鼓動も規則正しく聞こえる。
「どういうことですか? オルトさん!!!」
「矢が当たったようですね。矢が当たると眠りについてしまうのです。わかりやすいでしょう? でも体には傷は少しもついていないでしょう?
キャルさんの勝ちということですね。さぁ次のゲームはどなたと行いますか? 」
オルトは何事もなかったようにゲームの続行を促した。
(確かに矢はトマホークに弾かれたと思ったのだけど 物理的な防御は効果がないということかしら?)
キャルは思う。
「じゃぁ、サシ! 次はあんたと勝負だわ!」
「いいよー じゃぁ魔法で試してみよう!」
今度は、サシが杖をもち、キャルからできるだけ遠く離れて場所を定める。
(物質的防御は無効ということか? アイスウォールはたぶん防げないだろうな・・・・・・
となると僕ができるのは・・・・・・)
「我が魔力を糧とし、我に火の加護を与え、我身をその炎で守らん。ファイアウォール!!」
サシは、自分とキャルの間にファイアウォールを出現させた。
(部屋の中で炎魔法を使う選択肢って今までなら選ばなかったよ。魔王城だからだろうな・・・・・・)
キャルはサシの作ったファイアウォールに向けて矢を放った。真正面からファイアウォールに吸い込まれ消えたと思えた瞬間、ファイアウォールは掻き消えて、サシが杖を持ったまま倒れているのが見えた。 キャルは弓を手に震えていた。
「キャルさんは2勝ですね。なかなかお強い」
オルトはニコニコしながらキャルに拍手を送っている。
「あんた、バカにしてんの?? これって、どう見たってこの矢がおかしいでしょう! ファイアウォールでサシが見えなかったんだから! あたしの腕で勝ててるわけないじゃない!!」
キャルはオルトを睨みつけて、思いっきり弓矢をオルトのほうへ投げ捨てた。
「そうおっしゃるのでしたら・・・・・・
そうですね。ベンさんに起きていただいて、斧使いが弓矢を扱えるか、矢が当たるかどうか試していただきましょうか。そうすればベンさんにも勝てるチャンスが生まれるというものです。おもしろいでしょう?」
オルトはパンッと手を叩くと、仰向けで倒れていたベンがゆっくりと起き上がり、そのまま言葉を発することなくオルトのほうへ歩みを進めて、弓矢を受け取った。
3人は茫然としていた。
3人のほうへ振り返ったベンに、全く表情はなかった。虚ろな焦点が定まらない目をしている。
「おい、なんだよ、これ!!!」
「ベン、しっかりして!! 目を覚ましてよー」
「ベン、目ぇ覚ませやぁー」
さすがのトリスも観光気分が抜ける。
「あぁ、言葉が足りなかったかもしれませんが、ベンさんとサシさんの魂はいただいておりますから、眠っていっらっしゃるのですよ。ですから、皆さんのお声は届いておりませんよ」
オルトは嬉しそうに、3人の目の前で真っ赤に染まっている1本の矢を取り出した。
「こちらはベンさんの魂です。魂はなかなか美しいものでしょ?」
目の前で起こっていることが信じることができずにいるキャル、モイ、トリス。
「ちょっと我慢できなくなってきましたねー」
真っ赤な弓矢はフワフワと浮かぶ球体に形を変える。オルトは、その球体を引き寄せると、ペロンと舐めてから、真っ赤な球体をゆっくりと飲み込んだ。
「・・・・・・なかなかの美味でした。 種明かしもしてしまいましたから、ベンさんに次の魂をさっそく狩っていただきましょう」
「何よこれ!!! あんた悪魔なの??
・・・・・・でも、ちゃんとベンは息もしてるし鼓動もあるじゃないよぉー
魂を食べたですって?? あたしは、騙されないわよ!!!」
ようやく我に返ったキャルが叫ぶ。
「おや、正しくご理解いただいていないようですねー。
キャルさんに放っていただいた矢は私の魔力で作られていますので、キャルさんに魂を狩っていただいたということです。ちょっと楽しい趣向でしょ?
魂は精神体ですから、ベンさんという方がお持ちの人格や性格、感情などすべて圧縮されたものです。当然、そこにあるベンさんの体はからっぽですねー。
無駄な殺生はしないのが私の美学ですし、主様もお許しになりませんから。
私が食したいのは、魂だけですから・・・・・・
それから、私、悪魔ではございませんので、誤解なきようお願いいたします」
叫んだキャルも、モイ、トリスも知らされた事実に愕然とした。
魂の抜けたベンがぐるーっと辺りを見渡し、何の感情も読み取れない目で、3人に視線を止めた。
「おい! ベン!! 俺たちだってばぁー お前の仲間だよ!!」
トリスがなおもベンに話しかける。
「ベンさんの魂をさきほど私が食しましたでしょう? お声をかけても無駄ですよ
皆様、とてもいい表情をされていらっしゃいますね。
恐怖の感情は大変美味ですから、私も楽しみですよ」
「そうそう、もう1つ言い忘れるところでした。皆様のお体は私が大切に使って差し上げます。
ご安心ください。
このお城は大きいので手入れなどに人手が必要ですし、あなた方のようなお客様は、本当に大歓迎なのですよ。
ベンさんは最初に、誰に矢を投放つのでしょうねぇ。
皆さんもワクワクしませんか?
お三方とも真剣に防いでくださいね
最期にベンさんとの余興を思う存分お楽しみください」
オルトは楽しそうにクククと笑った。
3人の絶望に満ちた叫びを最後に、王の間には静寂が訪れた。
「大変、おいしくいただきました。皆様ありがとう。
お嬢様のお料理にかける手もこれで増やすことができましたね。ありがたいことです」
王の間には、狩られた魂をゆっくりと味わっているオルトがいた。
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