第14話 オルトのもてなし(1)

「とうとう魔王城まで来れたな!」


「あぁ、途中、魔物も出たが、俺たちにとっちゃ大したことなかったし・・・・・・

確かに数は多くなかったよなぁ。強ぇー奴も城に来る途中のワイバーンくらいか?」


「あれにはちょっとビビったね。まぁ、僕の魔法で倒せたからほっとしたよ」


「1匹だけだったじゃんよー。あれは、あたしの弓矢でかなり弱らせたから、とどめさせたんだからね!! そこ、間違わないで!」


「うん 魔王は倒されたってことなんだなぁ。やっぱ、すげぇよ、ハリーさんとデレクさんはよぉ! 俺たちも強くなりてぇなぁ~」


 峡谷を超えた先にある魔王城の大きな正門の前に、イストリア王国の5人の冒険者がいた。

 斧使いの戦士ベン、弓使いのキャル、魔法使いサシ、回復術師モイ、そして今では勇者と呼ばれているハリーとデレクに憧れる剣士トリスの5人組で、バランスの取れたパーティだ。




 ハリーとデレク、そしてマルルカが魔王を討ち取ったという知らせは、世界中に、瞬く間に広がった。それもわずか3人で魔王を倒したという事実は、驚きとともに、冒険者には憧憬をもって語られた。賢者メザクの愛弟子マルルカという少女賢者の命が犠牲となったほど、壮絶な戦いだったことも合わせて・・・・・・


 魔王が討伐されて少しすると、魔王亡き後の魔王城に未発見のお宝を探しに、魔の地域にやってくる者が現れる。冒険者の行く先をギルドは制限はかけていない。あくまでも自己責任の範疇で行動すればよいというスタンスだから・・・・・・


 通常、冒険者はギルドで仕事の依頼を受けて報酬を得る。ギルドが管理しているため、万が一、冒険者が依頼遂行中に行方不明になっても、その捜索・救助、探索が行われ冒険者の生死が確認される。そのため、冒険者ギルドから斡旋される依頼には少なくない手数料を取られるが、達成可能な実力に応じた依頼を斡旋してくれる。


 冒険者ギルドを通さずに依頼を受けることは、特段ギルドは禁止していないし、咎められることもない。でもだいたいは、限りなく黒に近い、犯罪まがいの依頼であることが多い。中には依頼手数料をお互い節約したいというものもあるが揉めることもある。


 これらは、当然ながら自己解決である。たとえば、その依頼で、トラブルや怪我に見舞われたり、あるいは命を落とすことがあったとしてもギルドは一切関与しない。自己責任だ。


 魔王討伐というイベントは、冒険者にとって一番の夢見る偉業であるため、この知らせが流れたときには、冒険者の間では大騒ぎとなり、どこの酒場でもこの話題で盛り上がり、お祭り状態が連日のように続いた。


 魔王城のある魔の地域は、多少腕に自信がある者であれば、一度は足を踏み入れてみたい場所、いわば憧れのような場所でもあった。


 魔王が討伐されたのであれば、数年は魔物の出現率は低くなり、レベルの高い魔物も現れなくなると言われている。そのため、比較的討伐レベルが低くなった魔の地域に足を踏み入れてみたいと思う者も当然出てくるし、浮かれて気が大きくなって、腕試しがてら魔の地域に入るものは少なからずいた。



 当然、冒険者ギルドからはそのような行動は自重するようにと、要請はかかってはいるが・・・・・・



 魔の地域に足を踏み入れたものの途中で帰ってきた者はいたが、魔王城にたどり着いて戻ってきたという冒険者やパーティの話や噂は、これまで一度も流れたことはなかった。


 城にたどり着いたものの命を落としたか、だどりつけないうちに途中で亡くなったのだろうと、冒険者の集まる酒場では噂されている。冒険者たちにとって、死はいつも背中合わせであり、ちょっとした油断で危険な目に会うのは常識だ。


 酒場での話の中には、魔王城で宝物を見つけて大金を手にし、冒険者を引退して、悠々自適の生活を送っているのだという噂もあった。


 そんな噂話に後押しされるように、1組のパーティが魔王城までやってきたのだった。







「よし!入るぞぉ~、気ぃ抜くなよぉ~」リーダーのトリスが声を張り上げる。


「ヤバいと思ったら即撤退だからな!」

 ベンが皆に確認するように4人を見渡して、扉の正面に立ち力を込めて開けた。


 重厚感のある大きな扉だったが、手をかけると難なく開けることができた。荒城という外観とは裏腹に、手入れの行き届いた美しいホールが広がっていた。左右の階段は曲線を描くように上階の踊り場へとつながり、正面には、一段と豪華な扉がある。



「ぜんぜんきれいだな」

「イストリアの城にも入ったことはねぇけど、城ってこんなのか?」

「魔気も感じないし、本当に魔物はいないみたいだね・・・・・・」

「それにしても、塵ひとつ落ちてないって、かえって気持ち悪くない?」


 城に入るとめいめいが思ったことを自然に口にする。


「俺、ハリーさんとデレクさんが戦ったところにいるんだなぁー  

とりあえず、真正面の扉をあけるぞ! きっとあそこが魔王と戦った場所だぜ!

 チクショー!!! 感激で泣けてくらぁ~」


 リーダーのトリスだけは、ほとんど観光気分になっている。


 5人は、ワクワクした気持ちを抑えながらも緊張を緩めることなく、慎重にホールを進んでいく。


目の前の豪華な作りの扉に手をかけようとしたとたん、扉が独りでに左右に開いた。

 5人はギョッとして足を止めた。


 王の間であろう奥にある玉座の左側に、物腰の柔らかい上品な雰囲気の男が一人立っていた。


「ようこそいらっしゃいました。あなた方がいらっしゃることは伺ってはおりませんでしたので、当主はあいにく留守ではございますが、留守を預かる者として当主に代わり歓迎いたします。オルトと申します」


「「「「「 歓 迎 ? ? ? 」」」」」


 5人は互いに顔を見合わせる。想定外の展開だし、なんだかおかしなことになっている。

(当主って誰だよー!? 魔王のことか??)


 目の前の男からは魔気ももちろん殺意もまったく感じないが、(ここに人が住んでいたのか? )と戸惑い、不審に思う。


「もちろんでございます。ただ、皆さま突然の来訪故、お迎えする準備が整っておりません。その間、私のちょっとした余興にお付き合いいただけませんか」


「余興・・・・・・ですか?」


「左様でございます。簡単なことでございますよ。この後のほうが食事もよりおいしくなるというもの・・・・・・」


 玉座の前で話していたはずのオルトは、いつの間にかキャルの隣に立っていた。

 キャルはとっさに防御態勢を取ると、すかさず、他のメンバーも陣形を作りながら飛びずさり武器を取る。


(まったく気づかなかった・・・・・・)

 キャルは背中に冷や汗が流れるのを感じた。


「おやおや、驚かせて申し訳ございません。私は、弓使いのあなたに余興でご使用いただく弓矢をお渡ししたかっただけですよ。お客様の大事なお体を傷つける行為はいたしませんので、ご安心ください」


 オルトは手にしていた無色透明なガラスのような弓矢をキャルに渡した。


「あなたには、こちらの弓矢を4本お渡しいたしますので、お仲間1人につき1本を使用して命中するように矢を放ってください」


「!!! そんなことできるわけないじゃない!!!」

 キャルは叫びながらオルトに弓矢を返そうと押し付けた。


「すみません、最後までまでご説明させていただいてよろしいですか?」

 オルトは、少し困った顔をして説明を続ける。


「この矢は、見ての通り矢じりはついておらず先端は丸くなっているのがおわかりでしょう? ですから当たってもお仲間の体に傷をつけることはありません。 

 矢としてのバランス調整はしておりますので、いつもご使用している弓矢と同じように扱うことができます」


 確かに、普通の矢のように風切り羽はあるが、よく見ると矢じりはなく先端が少し膨らんで丸くなっている。

(きれいな弓矢! 確かに当たったら矢のほうが砕けて壊れそうだ・・・・・・)


 キャルは弓矢を見て、オルトの言葉が嘘ではないことを確かめる。

 5人が矢を確認すると、オルトは「皆さま、ご確認いただけましたか?」と言って、弓矢をキャルに手渡した。


 「1人に1回ずつ矢を向けて放ってください。向けられた方は、矢が当たらないように全力で防いでいただく。ただそれだけでございます。防ぐ方法はご自由です。

 矢が当たらなければ防御者の勝ち、当たれば攻撃者の勝ちという単純なゲームです。


 皆様に軽く運動していただきリラックスしていただくことで、おいしく食事ができるというものです」



 どんだけすごい料理が食べられるんだろう・・・・・・

 オルトが言うこの後の「食事」を想像して、5人はつい期待してしまう。






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