宰相ヘンリー・ノイマンの嘆き

 何ということだ、あのバカ王子……!


「あれほどパトリシア様を蔑ろにしてはいけないと伝えていたものを」


 陛下に直談判しても取り合ってもらえず、殿下もどこ吹く風であり一向に素行がよくならない。


 そして今日、最大級の爆弾を投下してしまった。


「陛下! ルーカス殿下がパトリシア様に婚約破棄を申し入れてしましました!」

「ほう? だからどうなのだ、たかだか伯爵令嬢であろうに変えはいくらでも居るだろう」


 はぁぁああ!? 国王陛下、あんたまでもそこまで愚鈍だったのか。


「ではダンテミリオンの方へはどのようにお知らせすればよろしいでしょうか?」

「何故そこで伯爵家が出てくるのだ」

「いえ、伯爵家ではなくダンテミリオン帝国のことでございます」

「それこそ何故帝国など持ち出してくるのだ」


 こいつ、本気で言っているのか?


「パトリシア様はダンテミリオン帝国のご息女でございますゆえ、このような不義があると大問題になりかねません」

「それこそ帝国貴族の1令嬢に過ぎぬのだろう?」

「いえ、帝国の王族で「もう良い」……は?」

「もう良いと言った、下がれ……お前の小言がうっとおしくて敵わん」

「かしこまりました、お暇やめさせていただきます」


 ◇ ◇


 陛下の執務室を出た私は私に類するものに急ぎ連絡を取り、王国を脱出することにした。


 本当に何を考えているのか、わからない……。 アザイラム王国はダンテミリオン帝国の属国どころかただの支部のようなものなのだ。

 単純に帝国領が広すぎて管理できないため無駄なく資源を得るための衛星都市のようなものだ。

 その都市に、ある程度地域ごとの環境や風習を管理し統治をしやすくするため名前だけの王権を与えられているに過ぎないのに。


「この国は終わりだ、ダンテミリオン帝国首都に向かい亡命の許しを請うぞ、一同付いてこい」


 ◇ ◇


 こうして王国の宰相であり侯爵のヘンリー・ノイマンを筆頭に、子飼いの貴族はその日のうちに王都を捨て、ダンテミリオン首都へと馬車を進めることになった。


 その貴族やその貴族地域の住人や使用人は全人口の2割に及んだ、当然すぐに露見し追手を掛けられるのも想定していたのだが、その事が露見したのはしばらく経ってからだったという、王が慌て始めた頃にはすでにヘンリーの眼前には首都の巨大な門が見えていたそうだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る