探しモノ4

 そんな正確には読めない子ども心が真口様を連れて行ったのは川。父に教えてもらってからかなり気に入ってる場所だ。そこで川の生物を探したり、更に上流へ行ってみたり、川底に沈んでいる石の中から綺麗な物を探したり、それらの最中に偶然見つけた生物に興味をもっていかれたり。まるで風に吹かれる蒲公英の種のように移り変わる興味を引っ提げた私はいつの間にか自分が楽しむ事に夢中になりあっちへこっちへと真口様を連れ回していた。

 そしてそれは次はどこで何をしようかと考えながら海辺を歩いた時のこと。私の目は前方にいたあまりこの島に似つかわしくない二人組の姿を捉えていた。

 一人は背が高く細身。もう一人は逆に背は低いが丸く出たお腹。(柄は違うが)ハワイアンな雰囲気を感じる半袖シャツを着てサングラスを掛けたどこか怪しげな二人組。

 その内の細身の男は海や砂浜、(それらに背を向けた)反対側へカメラを向けてはシャッターをしきりに切っていた。

 私はそんな二人組へ訝しげというよりは興味を纏った視線を堂々と向けながら足を進めていた。それに合わせ自然と縮まる距離。

 すると観光客にしてはやけに面倒臭そうな表情を浮かべている太った男が(視線でも感じたのか)突然こっちへ顔を向けた。黒いサングラス越しの視線をひしひしと感じながらも私は見返しながら歩き続ける。


「お嬢ちゃん。ちょっと」


 するとその男はそう言いながら丸いお腹を揺らしながら私の方へ近づいてきた。そして素直を立ち止まった私はその姿を小首を傾げながら見ていた。


「お嬢ちゃんはこの島の子かい?」


 汗の流れる顎は余分な肉を揺らしながら動くとそんな問いかけをしてきた。ぎこちない笑みを添えて。

 それに対し私は声は出さずただ首を振った。


「そうか。それじゃあ、この島にしかないような場所とかも分からないか」

「それなら、こんなおっきなザリガニがいる川があるよ。他にもお魚さんとかもたっくさんいるんだよ」


 私は自信満々にあの川の事を教えてあげた。でも男の表情が華やかなものに変わることは無かった。

 それでも私はこの島で遊んで楽しかった場所や心に残っている場所の紹介に精一杯口を動かし続ける。二〜三ヶ所ぐらいだろうか。思い出しながら紹介してた為、段々と楽しくなり始めていた私を男の手と「いやいや、もういいよ」という声が止めたのは。その向けられた丸みを帯びている掌は私の顔ぐらいはありそうだった。


「助かったよ。ありがとう」


 男はそう言いながら私の頭へ(掌を見せていた)手を伸ばす。

 だがそれは頭に触れる直前で横から伸びてきた別の手に止められた。直後、私の双眸は男とほぼ同時にその手の方を見遣る。

 それは真口様だった。彼は相変わらず表情で男の目を真っすぐ見つめている。


「おいおい。あんまりシスコン過ぎると逆に嫌われちまうぞ」


 多分、真口様と私を兄妹だと思ったんだろう。男は嘲笑するようなニヤけ顔を真口様へ向けていった。


「さっさとこの島から出て行くことだな。お前らの望みは叶わん」

「は? 何言ってんだ?」


 真口様の言葉に対しさっきのニヤけ顔は消え、急に怒りの滴った声を出した男はそのまま彼の手を振り払った。

 それにしても本当に真口様は何を言っていたんだろうか?

 男は彼を寄せては返すひと波の分だけ睨みつけると(と言ってもサングラスをしていたから私の予測になるが)細身の男へ声を掛け、私たちの歩いてきた方向へと歩き出した。

 そしてその後姿を見送ってから真口様へ移る私の視線。少し遅れて彼の双眸も私を見返した。だがお互いに何かを言う訳でもなく先に視線を逸らした真口様は(元々向かっていた方へ)足を進め始めた。

 それから一時間程度だろうか。無尽蔵にも近い体力の一部を消費しても尚、私はまだまだ遊んでたかったが真口様はどうもそうじゃないらしい。


「儂はもう戻る」

「えー。もっと遊びたい」

「この姿を保つのにも力が必要だ」

「疲れちゃったの?」

「そう言う事だ」

「――分かった」


 それは渋々ではあったがそう返事をすると真口様は体の向きを変え神社の方へと歩き出した。一人残されながらもまだ遊んでいようかと思ったが私の足が選んだのは家。

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