第41話 メンバー

 各自にイザークから任務内容の文面がイーブンに届く。任務内容はそれぞれ異なるだろうが、主軸となるのは、俺とアーク、イザークのツインタワー『ラ・ドゥ・トゥール・ルェフエ』への潜入及び特攻だ。残りはその補佐といったところだ。イザークは俺とアークとは別ルートで潜入するらしい。なぜならタワーはツインだ。どちらも落とさなければならない。


「俺の任務は、あんたらを送り届けることだとよ」


 ダニー・モーレイはにやにやとやけに親し気にすり寄ってきた。さっきまで生きていたニワトリはあっさり絞められて、逆さまになって脇に抱えられている。


「イザークが許しても俺は許してないからな」


「悪かったって。確かにあのままじゃあんた水鉄砲で死んでた。でも、俺だって頭は悪かねぇよ、どっちについたら生き残れるかって? Uコードシステムなんてあんときゃ知らんかったが、上層階が俺を捨てるのなんて見えてりゃ」


「とりあえずその間抜けな格好やめろよ。腹出てるし。戦いにいくつもりないだろ」


「俺にしかできない任務を預かってんだ。文句があるなら、イザークさんに言いな」


 イザークも何考えてんだか。ダニー・モーレイから新しいイーブンと旧式のディスクを渡された。イーブンをアンヌ・フローラに取られたことを思い出して情けなくなってきた。俺とイザークの網膜認証がないとあいつらにはホーム画面を見ることさえ不可能だが。早速新しいイーブンにイザークから電話がかかってきた。


「イザーク悪かった。俺の手から十メートル離れたら通話履歴は自動で消えるようにしてあったんだ。え、どうでもいいって。え、それにこのディスク何なんだ」


 ディスクはコンピュータウイルスのソフトで、これでUコードシステムを破壊するそうだ。何だってこんな大事な切り札をダニー・モーレイから受け取らないといけないのだ。イザークは何を考えているのやら。言ってくれたら俺がシンクロで飛んで行って取りに行ってもよかったのに。


「何でアークを?」


 頭を悩ましていたこととは全く関係がない、アークに電話を代われという要望で音声をスピーカーから流すことになった。


 二人が仲良く話せるとは思えなかったからだ。案の上、アークは少し怪訝な顔をしてから、爽やかな声で少し鼻につく慇懃無礼な態度でイーブンに出た。


「何の用かな」


「ダンが世話になったな」


「そりゃもう子守は大変だよ」


 むかつく野郎だ。俺に何故かスマイルする。


「どこまで協力してくれる? いや、巻き込んですまないと先に詫びておく」


「協力するつもりはないよ」


「もちろん、それは構わない。ダンから妹さんをさらわれたと聞いてな」


 イザークにはアークのことは外界エクステリユの人間だとか、ニノンが姉だとかややこしいことは言わなかった。アークも他人の詮索は嫌がるだろう。ただ、イザークはアークを上層階の人間だと思っているから、怒ると思っていたが、それほど冷たい口調ではなく、しごく当然のことのように自分の身は自分で守って欲しいと伝えた。


「もちろん、そのつもりだよ」


「シンクロ能力は?」


「あるからご心配なく」


「どんなものか聞いても?」


 アークは少しいたずらでもやらかしたように微笑んで答えた。


「氷だよ。業務用冷蔵庫」


 温暖化メサ冷却装置のことをはぐらかしても、ここまで素直に答えるのは意外だった。俺と話したら自身のことについては話したがらないくせに。イザークも陽気な笑い声をあげて、冗談だろと言わんばかりに質問した。


「そいつは便利だな。人も凍らせられるのか?」


 アークは俺にちらっと視線を向けて、想像に任せるよとどこか楽しげに答えた。二人の会話は有意義だったらしい。イザークは、再び俺に言付けた。ここで、スピーカーはオフにしてアークには聞こえないようにする。


 アークは部外者だし、戦力としては数えていないこと。協力を得られたらそれは感謝するべきだと。よって、俺の潜入には、ダニー・モーレイの他に、もう一人つけるとのこと。イザークの従妹のリアだ。


「おいおい、リアはまだ未成年だろ」


「俺たちが活動をはじめたのはいつだ? 未成年だったろう」


「いや、でもあいつはまだガキだ」


「失礼しちゃう。みんな命かけてるんだから私だって参加させてよね」


 どこから現れたのかさっきの会合で姿もなかったのにリアは俺の脇腹を小突いてイーブンをぶん取った。


「イザーク兄、こっち着いたよ。またダンがさ、お説教。うん、銃は撃たないし触らない。でも正当防衛はOKよね? 分かってるあくまで私はずっと伝達係だから」


 勝手に会話を終了されてイーブンが戻ってきた。


「イザークはどうしてお前に銃の撃ち方を教えたんだろうな」


「いざとなったら頼りないダンの代わりに撃つためよ。あんたのHK416は?」


 アークに治療費としてアサルトライフルを没収されたことなど今更思い出したくなかった。肩をすくめてビール漬けのアークを見やる。リアには何も言ってないのに、俺の気まずい顔を見てリアはアークのところに歩み寄った。


 華奢な身体で銃を入れてない空のホルスターを茶色いズボンの両端に吊り下げて今日は本当に活躍してくれそうだ。赤いヘアピンで前髪を止めなおすとアークの向いに了承を得て座った。


「ねぇ、上層階の人?」


「まあ。下層階の夜は寒いね」


「私たちみんな慣れてる。ダンに貸しでも作ったことある?」


 アークとリアが俺が横を向いているふりをしているのに気づいて盗み見てくる。


「彼は治療費を払わなかったよ。ほかにも色々、ここ数日は気がおかしくなりそうな出来事が続いているよ」


 リアは何故か俺の方を憐れむような目で見た。穏やかに微笑むアークににじり寄って分かったわと、意気込んでいる。席を立つと俺の方へ鬼の形相で引き返してきた。


「おいおい、俺に問題があるってのか」


「イーブン貸して」


 またイーブンを取られた。


「イザーク兄、忙しいところごめん。もうこれっきりで連絡は作戦までしないわ。ダンがHK416なくしてるの。うん、予備のHK416持ってくるね」

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