ロマンチックで素敵じゃないですか
「……」
そんな彼らを横目で眺めながら、黒髪をソフトモヒカンにした少年が握り飯を口に運んでいた。どこか憎々しげな、それでいて羨ましそうな視線。神風たちはそれに気付くことはないだろうが、何となく気に食わなくて、少年――
「こんにちはー郁君。何見てたんですか?」
「何でもない。というか何しに来た、
「見ての通り、一緒にご飯食べようと思いまして!」
「勝手に座るな。そこお前の席じゃない以前に、お前隣のクラスだろ」
犬飼の小言は右から左に聞き流し、昴小路
「今日カレー弁当にしたんですけど、一口食べます? あーんしてあげますよ」
「要らん」
「つれないですねー。そんなだから郁君には友達ができないんですよ」
「やかましい」
耳にタコができるほど聞いた台詞を軽く流し、犬飼は再び神風たちの方向に視線を流す。変わった
「……郁君には僕がいますし、別によくないですか?」
「べっ、別に友達が欲しいわけじゃない」
「声裏返ってますよ」
言い放ち、カレーを口に運ぶ昴小路。反論できずに俯く犬飼を眺めながら、昴小路は何気なく彼らの話題に耳を澄ませてみる。犬飼の席から彼らの席はまあまあ遠いが、聞こえないほどではない。しばらく耳を傾けていると、「赤い糸」という単語が耳をかすめた。楕円形の眼鏡の奥で、切れ長の瞳が彼らを見つめる。ふと、昴小路は犬飼に視線を戻し、何気なく口を開いた。
「……郁君は、運命の赤い糸って信じますか?」
「は?」
顔を上げ、犬飼は怪訝そうに眉をひそめる。妙に真剣な昴小路の瞳をしばらく眺め、すぐに目を逸らした。そのまま、堂々と吐き捨てる。
「くだらない。信じてたまるか、そんな非科学的なもの」
「……郁君って文系でしたよね?」
「そうだが、それとこれとは別だ」
「……ふーん」
素っ気ない返答に、昴小路はもう一口カレーを掬った。口に運びつつ、考える。昴小路が所属する特進B組はいわゆる理系クラスで、理系の人間としてはそんなロマンスは一笑に付すべきなのかもしれない。だけど、と彼は軽く笑みを吐き出した。
「僕は信じますよ。ロマンチックで素敵じゃないですか」
「……お前、理系の人間だろ?」
「そうですけど、それとこれとは別です」
「俺の台詞をパクるな」
言い放ち、握り飯の最後の一口を口に放り込む犬飼。そんな彼を慈しむように見つめながら、昴小路はカレーを口に運ぶ。
◇
ブロック菓子をくわえたまま、
(赤い糸……なぁ)
彼の本来の席は今、御門に奪われている。そのため彼の席を拝借しているわけだが、そこからでも彼らの会話は十分耳に届く。
(山田と神風は完全に付き合ってるわけだし……いや、公言してるわけじゃないけど。でも毎日のように俺の後ろの席でわちゃわちゃしてるの、マジ供給。妄想が
本人たちの耳には絶対に入れられないようなことを考えつつ、彼はシャーペンを走らせる。次に思考の
(桃園は……芸能科のヤンキーとよく一緒にいるよな。前に
気持ち悪い笑みを抑えきれぬまま、彼は犬飼と昴小路の方に視線を流す。シャーペンを怒涛の勢いで走らせつつ、回転する腐男子脳に導かれるままに思考を巡らせる。
(犬飼と昴小路は生徒会の会長と副会長……この組み合わせ、いいよな? さらに堅物ツンギレと犬系ゆるふわ高身長だぞ? はぁ~……性癖のフルコースかよ。もう腐男子にとっては天国だわ……幸せ……)
誰か忘れているような気もするが、気にせず矢作はシャーペンを勢いよく動かす。隣の席に座る親友の氷のような視線は気付かなかったふりをして、矢作は妄想の爆発に身を任せる。
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