第31話 合流
「
薄暗い
結ビ姫は普段とあまり変わらない様子で黙って周りをきょろきょろと見回し続けていましたが、ふと暗闇に近付く人影を見つけて慌てて蒲公英姫のドレスを掴みます。
「あそこ……。」
蒲公英姫が指さされた方向を振り返りランタンを向けると、青い薔薇で彩られた大きな帽子をかぶり、
「…はじめまして。驚かせてごめんなさい。」
その人は少しびくびくとした様子で言葉を発しました。少年とも少女ともつかない、優しく凛々しい声。なんとなく悪い人ではないような気がして、蒲公英姫は身体の緊張を少し解きました。
「あなたは…?」
「私はラン。サンクチュアリの庭師。三人目の、ドレッサーです。」
その言葉に蒲公英姫はサンクチュアリにやって来た時にマリーゴールドから聞いた事を思い出しました。そうだ、確か彼女は「門番と自分ともう一人いる」と…。
「あの…もしかして舞胡蝶姫をお探しですか?」
なんとなく所在なさげに
「あ…はい。この闇の中一人で灯りも持たずに行ってしまって…。」
「それは心配ですね。ちょっと聞いてみます。」
言葉の意味を図りかねて蒲公英姫は戸惑いましたが、ランはその間にも傍らの木の幹に手をそっと沿わせて急に大きな声で言いました。
「みんな聞いておくれ!舞胡蝶姫を見かけた者はいないかい?」
虚空に向かって問いかけたランの姿に、蒲公英姫も結ビ姫も驚いて目を丸くしました。当然返事は返ってきませんが、当のランは真面目な顔で何かに耳を澄まし、そしてぽつりと小さな声で「…そうか、ありがとう。」と呟くと顔を上げ、固まっている二人の方を振り返りました。
「あっちです。ついてきてください。」
「えっ?あっ…待って……!」
急に早足で歩きだしたランを二人は慌てて追いかけます。息を弾ませながら結ビ姫はランに問いかけました。
「…さっき、誰に話しかけていたの?」
「…植物です。私は植物の声が聞こえるので…と言ったら信じてもらえますか?」
道を急ぐランの言葉に蒲公英姫は頷きました。
「信じます!だって、ドレッサーさんはみんな不思議な力を持っているものね。」
「…私はそれほど派手な魔法が使えるわけではありませんよ。」
ランは思わず苦笑いしましたが、急に黙って前方を指さしました。はっとして蒲公英姫と結ビ姫が顔を上げると揺れているランタンの灯りが見えます。
「舞胡蝶姫!?」
呼びかけると灯りはぴたっと止まり、大急ぎでこちらに向かって近付いてきました。現れたのは、思った通り舞胡蝶姫でした。
「もう…急に行かないでよ!私たち心配して…」
そこまで言かけて蒲公英姫はぎょっとしました。よく見ると舞胡蝶姫の顔は泥だらけで、ドレスも汚れて破れていたからです。舞胡蝶姫は友人たちの顔を見ると安心したのか我慢できず幼い子供のように泣き始めました。
「落ち着いて。大丈夫?」
何かあったことを察して蒲公英姫は舞胡蝶姫の瞳をまっすぐに覗き込みました。横では結ビ姫が黙って頭を撫でたりしています。ランは身の丈ほどもある大きな
「あなたは…ドレッサー?怪我を治す魔法が使えるの…?」
「ドレッサーのランと申します。えっと…はい。私の力は癒しで…」
言葉の途中にもかかわらず舞胡蝶姫は急に
「じゃあ…!もしかして、マリーのことも治せますか…?!」
ただごとではない雰囲気を察した蒲公英姫と結ビ姫は、身を乗り出して舞胡蝶姫の抱えているものを確認しました。それは少し薄汚れた、えんじ色のドレスを着た明るい髪色の少女人形で、確かにマリーゴールドによく似ています。ランは絶句してその場に立ち尽くしましたが、すぐに我に返ると舞胡蝶姫に言いました。
「彼女をこちらに置いてください!」
舞胡蝶姫が慌てて言われたとおりに地面に人形を置くと、ランはすかさず
「……申し訳ございません。僕の力ではどうすることもできないようです。」
俯いたランの表情は大きな帽子の影になって見えません。何が起こっているのかよくわかっていなかった蒲公英姫と結ビ姫にも、ここにきてようやく事態が飲み込めてきました。二人は顔を見合わせてお互いの考えを探り、やがて意を決した蒲公英姫が重い口を開きます。
「…あの……もしかして、なんですけど。このお人形って…」
「……はい。マリーゴールドです。」
返ってきた答えは予想通りでしたが、ランの口から紡ぎ出されたその一言は思った以上の深刻さでその場の空気を凍らせました。結ビ姫は静かに泣いている舞胡蝶姫を抱きしめるようにして問いかけました。
「…一体、なにがあったの?」
その場の全員の視線が舞胡蝶姫に集まります。舞胡蝶姫は
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