第28話 嘘つき
門番の少女が消えると緊張がとけたのか、
「マリー、腕が…!どうしよう…!」
「…別に。構いやしませんわ。もうすぐ消える身ですもの。」
マリーゴールドはむすっとした顔で舞胡蝶姫の手を振り払いました。
「門番に存在の
あっけらかんと放たれた言葉をうまく
「マリー!!」
舞胡蝶姫は今にも泣きだしそうな顔で彼女を受け止めると、その冷たい身体に祈るように顔を寄せました。抱きしめられている、というよりはしがみつかれているという表現の方が合っているような状況でしたが、こんなふうに誰かとぴったりとくっつくのは、マリーゴールドにとってとても懐かしい経験でした。
まだ半ば
「…以前から思っていましたが…あなた馬鹿なんですの?」
「なんでよ!バカはマリーの方でしょ…こんな無茶して…」
「いいえ、あなたの方ですわ。さっきの門番への言葉はなんなんです!?」
マリーゴールドは舞胡蝶姫から離れようとじたばたと身体を動かしましたが、その片腕にこもる力はとてもか弱いものでした。
「あのですね?この際だから言わせて頂きますけど、わたくしは単に役割だからあなた達の世話を焼いていただけで別に優しいわけじゃないんですのよ?馬鹿じゃなければどうして、この
舞胡蝶姫は少し驚いたように目を丸くしましたが、涙をぬぐって顔を上げると弱々しく微笑みました。
「しないよ。だってボクはマリーが大好きだもん。」
その言葉を聞くとメイドは呆気にとられたような表情で固まったかと思うと、深いため息をついてしばらく打ちのめされたように
月明かりの中、優しい静寂が訪れました。疲れたようにそっと
「マリー、マリー、消えちゃいやだよ…!」
舞胡蝶姫の
(病気のボクを見ていたパパとママも…こんな気持ちだったの?)
舞胡蝶姫はぐすぐすと止まらない涙を
「…ああ、もうびしょびしょじゃないですか。ハンカチを出す余力はないですわよ。」
マリーゴールドは
「…舞胡蝶姫、この本は…“はじまりの
舞胡蝶姫は本を拾い上げながら
「これを手に入れて…どうするつもりだったの?」
「…不幸なあの方を目覚めさせたかったのです。ページを破って記憶を失くしてしまえば、彼女だってただの女の子ですもの。今のサンクチュアリにはあなた達がいますから…きっと楽しくやっていけるはずですわ。」
「マリー…」
「まぁ、彼女はこの世界の心臓とも呼ぶべき存在なので…目覚めさせればいろいろと異常が起きることはわかっていました。でも例えもしこの世界がこのまま滅びたってそれはそれで良いと思ってましたわ。誰も終らせる者がいないから、わたくしがサンクチュアリの敵になったまで。あなた方には恨む権利がありますし…そうするべきです。反省なんて、してませんしね。」
まるでむしろ
「だから…そんな顔する必要ないのですわ。」
ゆっくりと開かれた瞳の鮮やかな
震える手で拾い上げたその人形は、マリーゴールドそっくりです。舞胡蝶姫は真っ青になって動けなくなりましたが、我に返ると横に置かれた本とランタンを持ってよろよろと立ち上がりました。
茂みの向こう、涙でかすむ視界には先程散々
「マリーの嘘つき…。」
舞胡蝶姫は
「やっぱりあなたは優しいじゃない。」
今度は転ばないように、ドレスをひっかけないように気を付けながら、勇気を出して暗い森に一歩踏み出します。胸には一冊の本と人形を、優しく大切に抱きかかえながら。
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