第25話 闘争
暗い森の中で
(早く見つけなくては…早く……!!)
焦燥に駆られながら辺りを見回していると、不意に頭上に気配を感じ
「マリーゴールド、今すぐ出てきなさい!」
静寂に門番の声がこだましました。しかし返事はなく、代わりにまたフォークが降ってきます。門番の少女は
「あなたもドレッサーならばわかるでしょう?このままではサンクチュアリが崩壊してしまいます…!」
頭上にまた気配を感じ、何度目かのフォークを避けようとして彼女は違和感に気付きました。
(音が…違う……?)
金属同士がこすれ合うような音。上を仰ぐと降り注いできたのは今度はフォークではなく大量の
(
気付いた時にはもう遅く、先程までとは違って広範囲に渡って出現させられたそれらを避けきることはできませんでした。門番の少女はまだ動揺の
「…あら、あっけない。どうも本調子ではないようですね?」
動けなくなった門番を見ると、
「ここまでですわ。いくらあなたとはいえ、
「……っ」
門番の少女がもがくたび、ますます鎖は絡まっていきます。感情を隠すこともせずに睨みつけると、マリーゴールドは眉をひそめて小首を傾げました。
「…驚いた、そんな顔が出来ますの?…だとしたら
メイドはその場にゆっくりとしゃがみ込み、門番に顔を近づけます。
「わたくしは長い間ずっと見てきました。
門番の少女は俯き、短い沈黙の後にぽつりと答えました。
「…言い訳はしません。あなたの言うことは
思いもよらない返答にマリーゴールドは少し面食らいました。彼女はこれまでずっと門番の少女のことを、サンクチュアリの歯車としての本能に突き動かされているだけの感情の薄い自動機構のようなものだと思っていたのです。心が目覚めたあの時に彼女が見せた冷たい態度———、自分やランの言葉に耳を貸さずサンクチュアリの延命を徒花姫を使って始めた横暴さ。そしてドレッサーたちの中でもなぜか飛びぬけた魔法の力で、全てを監視し逆らわないよう脅されてきたことを考えれば、その思考に至るのはむしろ自然と言えました。ですがどうしたことでしょう。数百年の怒りを爆発させ反抗しついに追い詰めたその人には普通に感情があり、自らの行いも客観的に見ているというのです。
そうしてマリーゴールドが混乱している間に、少しずつ冷静さを取り戻した門番はゆっくりと顔を上げました。彼女の深紅の瞳が、暗闇の中で鋭く
「残酷だから、何だというのですか。間違っているから、何だというのですか。私はあの子と再び会うためだけに、これまでたくさんたくさん踏みにじってきました。だからこそ、絶対に折れるわけにはいかないのです…!!」
「!!」
門番の叫びと共に、マリーゴールドの持っていた鳥籠が突然炎を噴き出して燃え上がりました。メイドは焼かれる苦痛に悲鳴を上げ、腕を抑えて
「う…く……っ」
右腕の感覚がありません。焦げたにおいが辺りに充満していました。マリーゴールドはそれでもすぐに立ち上がり、スカートの中に隠し持っていた短刀を取り出そうとしましたが、急に身体が石のように固まってしまい動けません。気が付くといつの間にか鎖の中から抜け出した門番が、目の前で鳥籠を掲げて立っていました。
「絵本を返しなさい、マリーゴールド。」
「……ふん。奪うなら、力づくでなさい。あなたとわたくしの
「わたくしはあなたという横暴な独裁者からサンクチュアリを解放しようと思いました。ですがあなたもまた悩める個なのだとしたら、正義なんてもうどこにもありません。より
マリーゴールドの言葉に、追い詰めている側のはずの門番は唇を噛み締めながら青ざめていました。何を言ってもマリーゴールドは決して自分から絵本を返したりしないでしょう。彼女は自分を
門番の少女はすぅと息を吸い込むと、また本心を殺し、努めていつものような無表情を顔に張り付け、胸をこみ上げる汚泥のような苦痛と孤独の中で呟きました。
「……さようなら、マリーゴールド。」
鳥籠の中から溢れ出た黒い
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