第23話 反逆
まず最初にあったのは、自分を
「とっても綺麗な髪の色ね。わたくしの大好きなあの花に似ているわ。
…決めた!あなたの名前はマリーゴールド。お友達に…なってくれる?」
話しかけてくれた、優しくあどけない声。
次に訪れたのは冷たく静かな無限の闇。
無機の身体はあの狭い
だけどこの目はもう一度目覚めたのです。
別の世界で、自由に動ける手足を得て。
マリーゴールドは何をするでもなく、とぼとぼと庭園を歩いていました。またお茶会の準備の
(嫌ですわ。わたくし…ついに壊れてしまったのかしら。)
何気なく
(歯車としても欠陥品だなんてね。我ながら本当にどうしようもありませんわ。…でもまさか、あの真面目なあの子がねぇ…。)
マリーゴールドはランのことを考えていました。ランが
(門番にでもバレたらどうなるかわかりませんのに…、そんな危険を冒した上に大切な人まで失うなんて…
それでもまっすぐな瞳で「彼女の力になりたかった」と言ってのけたランが、マリーゴールドにはどうしようもなく
気が付くとマリーゴールドはドレッサーの館の前に立っていました。彼女は古びた石造りの大きな建物を気が済むまで見上げた後、今度ははっきりと意志を感じる強い足取りでその中に入っていきました。
(…ならばわたくしも、もう我慢しませんわ。)
マリーゴールドはもともと徒花姫たちをサンクチュアリに呼び込むことへは反対でしたが、門番の少女がそれを始めてしまった以上、歯車として従わなければならないと思っていました。それが彼女に刻み付けられた本能のようなものだったのかもしれません。口ではいくら門番に悪態をつこうとも、根本的に逆らうことは許されない。
今の今までは、ランも同じだと思っていました。
(だけど違った。…ああ、本当はずっとずっとこうしたかった…!)
マリーゴールドは
がらんとした部屋の中にはガラス張りの
「マリーゴールド!何をしているのです!」
背後についに門番の少女が現れました。マリーゴールドは素早く振り返ると歪んだ笑みを浮かべて言い放ちます。
「見ればわかるでしょう?わたくしはこれから“怒る”んですのよ。数百年分ね。」
次の瞬間、大量の
「あら、情けないお顔だこと。もっと怒り狂って頂いてもよろしくてよ?」
庭園のメイドはそのまま後ろへ飛びのくと、殺風景な部屋に一つだけある薔薇窓に体当たりして叩き割りました。そして色鮮やかなガラスの破片が降り注ぐ中、壊れたような高笑いを上げながら真っ逆さまに下へと落ちていきます。
「…うふふ…あははは!!いい機会ですわ…思う存分やりあおうじゃありませんか、門番!!」
地の底から鳴り響くような音と共に、ぐらぐらと足元が揺れ始めました。門番の少女はフラフラと窓に近付き、身を乗り出して下を見ましたが、マリーゴールドは大量のクッションを自分の周りに呼び出し姿をくらませてしまったようです。きっともう森の中にでも逃走してしまったのでしょう。
「そんな……」
門番の少女はもはや隠すことなく
動揺のあまりうまく身体に力が入りません。しかしその瞬間辺りが急に暗闇に包まれると我に返って顔を上げました。先程の地鳴りや揺れといい、マリーゴールドが本を破ったせいで、異変が生じているのは明らかでした。
「……早くあの絵本を取り返して元に戻さなければ…!」
門番の少女は立ち上がるとマリーゴールドと同じように窓から飛び降り、夜の闇に消えました。
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