第20話 ひとつの真相
時間の
ある時ランはふと、庭園の
「あらぁ、ランじゃないですか。こそこそ逃げ回るのはもうやめましたの?」
様々な徒花姫たちと過ごした影響か、久々に
「マリーゴールド、一時期に比べて徒花姫の数が少し減っていないだろうか?」
「ええ、減ってますわよ。…近頃はだいぶ静かになったものですわ。」
返ってきた言葉に、ランの頭にはかつて“心臓”に起こったことが
「それは…もしかして、彼女たちも“心臓”と同じような状態になってしまったということかい?」
「厳密に言うと違いますわ。」
マリーゴールドは無言で何か考えた後、少し
「彼女たちは…急にいなくなってしまったのです。体は残さず、幻のように。」
「…なんだって?」
不穏な報告に思わず背筋が凍ります。ランはざわざわと嫌な予感が足元からこみあげてくるのを感じていました。マリーゴールドは「これはわたくしの仮説ですけれど」と前置きしてから後ろを向いて続きを話し始めました。
「あなた、徒花姫たちがサンクチュアリにやって来た時に、門番から魔法の本を渡されているのはご存じ?」
「それは…“心臓”が持っていたのと同じようなものかい?」
「そうですわ。行動が勝手に記録されていく、いわば自分の物語の絵本。」
穏やかな風の中、振り返ったメイドは小さな声で囁きました。
「あの本はおそらく、徒花姫の命そのものですわ。」
ランは一人庭園を歩きながら、マリーゴールドの言葉を思い返していました。
消えた徒花姫たちはみな互いに仲が良かったこと。
消える少し前から
そして彼女たちが消えた時にはきまって炎の残り香がし、例の絵本が灰になって見つかっていること。
(徒花姫たちは自分と本の関係に気付き、情報を仲間同士で共有していた。そして本を燃やすことで自らを消滅させた…?本当に…?)
マリーゴールドの話を全面的に信じていいのか
(
人目につかない庭園の外れで研究に没頭している彼女は、他の徒花姫とはほとんど交流を持っていません。それならば自分で絵本の正体に気付かない限りまだ知らないはず。
(でも頭の
ランはこの間の百花姫の様子を思い出していました。
沈黙の後に見せた弱々しい笑顔…。
ランは気付くと彼女の居場所に向かって走り出していました。
辿り着いた植物園の中に、珍しく百花姫の姿はありませんでした。
(種の採取にでも行ったのかな…?)
ランはまわりをきょろきょろと見渡して人気のないことを確認すると、少し後ろめたさを感じながら彼女の机の引き出しをそっと開けました。
(あの人なら…本をどこにしまうだろう?)
「……“徒花姫”とはよく言ったものだと、そう思わないかい?」
急に背後から飛んできた聞き慣れた声に、ランは動きを止めました。じっとりとした嫌な汗が額に浮かびます。
「私たちは
ランはやっとの思いで後ろを振り返りました。部屋の入口のそばに
「今日は久々に庭園の中心部へ行ってみたんだ。いろんな発見があったよ。ラン、君に聞きたいことがある。」
ランは思わず後ずさりました。
「何人かの徒花姫たちがいなくなっているようなんだが、どこへ行った?」
「……」
「答えられないのか?」
「…ごめんなさい、わかりません。」
「ラン、…私はもう植物の研究をやめようと思う。」
「え…?」
信じられない言葉にランは耳を疑いましたが、百花姫は穏やかに微笑んで言いました。
「すこし昔話をしてもいいかい?」
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