第14話 即席馬車
「むすびちゃん…連れて行かれちゃった…ね…。」
「私たちといると、結ビ姫にとって良くないのかな…?」
「でもボク見たよ…!連れていかれる時、むすびちゃん寂しそうな顔してた…!」
その言葉に蒲公英姫もゲームに熱中していた結ビ姫の姿を思い浮かべました。
「そう…だよね。彼女、楽しそうにしてたと私も思う。門番さんの言う通り何か問題があったとしても、必要なのはまず話し合いだよね…!」
こくりと
「マリー!!」
彼女が庭園のメイドを呼ぶときはいつもこうでした。どんな時でも一声呼びさえすれば瞬時にマリーゴールドは現れるのです。今回もいつの間にか彼女は
「…何かあったら呼べとは言いましたけど、本当に人使いが荒いですわね。」
「マリー、あのね!門番さんがむすびちゃんを連れて行っちゃったの!」
「そのようですわね。」
「お願い、むすびちゃんの所へ連れて行って!門番さんみたいにビュンって!」
手袋を脱いで長い爪を退屈そうにいじっていたマリーゴールドは、舞胡蝶姫の言葉に心底嫌そうな顔をしました。
「あのねぇ、
「え?マリー、いつも呼んだら一瞬できてくれるじゃない。」
「それは…そうですけど、それとこれとは話が別というか…」
「…たぶんだけど、誰かを一緒に連れて行ったりは無理なんじゃない?」
「聞こえてますわよ。余計なお世話ですわ。」
不思議そうに首を
「…でも、確かに気に入りませんわね。
メイドはドレスの
「わかりましたわ。協力してあげてもよくってよ。」
「やったー!マリーありがとう~!」
「勘違いしないでくださる?一度試してみたかったことがあるだけですから。」
はしゃぐ舞胡蝶姫に構わず、マリーゴールドはすぐに奇妙な行動を始めました。突然まるでそこになにかがあるように、指を滑らせて空中を撫でるような仕草をし出したのです。彼女が何をしているのかまるで見当もつかず、ぽかんと見守っていた蒲公英姫はふと我に返ると気が付きました。
(あれ?
そういえば結ビ姫が連れ去られた後くらいからいないような気がします。慌てて辺りをきょろきょろと見回すと、いつの間にか彼女はまた先程まで寝ていた荷車の中にいました。しかもすやすやと気持ちよさそうな寝息を立てて。
「ね、寝てる……!」
一方マリーゴールドの作業は、蒲公英姫が衝撃を受けて立ち尽くしている間に完了していました。撫でていた空間が輝きだしたかと思うと一頭の金色の馬が現れたのです。
「お馬さんだ!すごーい!かわいい!」
駆け寄ろうとする舞胡蝶姫の前にすかさずマリーゴールドが立ちはだかります。
「ちょっと、
「えっ?触ったら消えちゃうの?」
「わたくしも生き物を出したのは初めてなので何が起こるかわかりませんけど、とにかく余計なことはしないで頂きたいですわ。」
喋りながらマリーゴールドは睡莉姫の寝ている荷車を馬のそばまで持ってきて、ロープで繋ぎ始めました。しっかりと何度も結び解けないのを確認してから、ひらりと馬にまたがります。
「できました、
「えっ…これ、馬車…?屋根とかないけど大丈夫…?」
「ごちゃごちゃうるさい。ほら、早く結ビ姫のところに行くんでしょう?」
不安げな面持ちの二人はその言葉に意を決して、恐る恐る荷車に乗りました。荷台は三人でもうぎゅうぎゅうです。全員乗ったのを確認すると即席馬車はゆっくりと動き出しました。
「あ、あの…ちなみにマリーさん…馬車の運転経験は…?」
蒲公英姫が
「そんなの、あるわけないじゃないですか。黙ってしっかり
急にがくんと馬車が揺れて、蒲公英姫と舞胡蝶姫はカートの中に倒れました。馬が急に走るスピードを上げたのです。即席馬車はサンクチュアリを
ついに抑えきれずはしゃぐように笑い出した舞胡蝶姫につられて、身体を丸くして縮こまっていた蒲公英姫もけらけらと笑い出しました。
「ねぇジェットコースターって、こんな感じ?」
「かもね!」
「喋ってると舌
マリーは荒すぎる運転を悪びれる様子もなく、
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