第7話・青の庭師
庭園の
「ふぅ。」
立ち上がった人物は熱心に薔薇の葉の様子を観察し、にこりと
「よかった、すごく元気だね。少しだけ形を整えようか。」
少年とも少女ともつかない中性的で不思議な雰囲気を
ランは
サンクチュアリのドレッサーの一人であるランの役割は、この広大な庭園の庭師です。いつも人知れず忍ぶように庭園を歩き回り、魔法の鋏で植物たちの世話をしています。徒花姫たちとはほとんど交流することはありませんが、彼女たちのことはよく知っていました。
なぜならランには植物の声を聴くことができたからです。正確にはもちろん植物は話したりしませんが、ランには彼らの言っていることが不思議とわかるのでした。
だからこの時、徐々に植物たちに
「……みんな、なにかあったの?」
ランは問いかけ、少し耳を澄ました後、
「わかった、ありがとう。少し見てくる。」
と言って、長いマントを
実は以前から一華姫のことは気になっていました。なぜなら彼女のガゼボ周辺の植物たちが、いつもどこか元気がなさそうだったからです。理由は何となくわかっていました。植物たちは優しいので、近くにいる者の感情をくみ取りやすいのです。一華姫とは話したこともありませんが、彼女がろくに睡眠もとらず野ざらしのガゼボの中に
(あなただったら…こんな時、どうするでしょうか…
「あらぁ、優等生君じゃありませんか。一華姫の所に行きますの?」
「…マリーゴールド、何があった?」
「別に。わたくしはただお話していただけですわ。」
「やはり騒ぎを起こしたのは君か。」
「
「……わかっている。様子を見てくるだけさ。」
「あ、お待ちなさいな。」
横をすり抜け、先を急ごうとするランを、マリーゴールドは呼び止めました。
「あなたに頼みたいものがありますの。」
一華姫のガゼボに、もう門番の姿はありませんでした。一華姫は相変わらず一人きりでガゼボの中にぽつんと座っていましたが、いつもより身体に力が入り少しだけ震えてもいるようでした。そして
(応急処置にもならない…根本的な原因を取り除かないとだめか。)
ランは深呼吸し、意を決して一華姫のガゼボへと進み出ました。大きな帽子を深々と被り、表情を悟られないようにして。
「一華姫。」
「……」
一華姫は応えません。下を向いたまま微動だにせず、重たい沈黙が流れました。ランは帽子のふちを少し上げ、一華姫を見ました。
(……重なるな…あの時の“心臓”の様子と。そうか、それで…。)
マリーゴールドが一華姫に話しかけるのを我慢できなかった気持ちが、ランにはわかるような気がしました。
ランは肩をすくめると、静かな声で呟くように語りかけました。
「……あの、アネモネはお好きですか?」
一瞬ぴくりと一華姫の身体が動いた気がしました。ゆっくり顔を上げた彼女は「なぜ?」といった表情でいぶかしげにランを見つめました。
「いえ、アネモネには確か“
ランの言葉を聞いた一華姫はじっと
「申し遅れました。私はラン。サンクチュアリの庭師です。突然ですが一華姫、アネモネを見に行ってみませんか?」
一華姫は差し伸べられた手を戸惑いながら見つめました。
ランは
「庭園のメイドが先程は失礼いたしました。実は彼女はあなたにこれを渡しに来ていたらしいのです。」
「……」
「靴を履いて、行ってみませんか?ガゼボの外へ。」
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