第一章 蒲公英と蝶
第1話・招かれた少女
サンクチュアリって知ってる?
そこはいつもいいお天気
お花がきれいな大きなお庭
お姫様みたいにちやほやされて
それはそれは素敵なところ
眠る前にお祈りすると
夢の中に女の子が出てきて
サンクチュアリへの扉を開けてくれる
だけどね…
入ったらもう二度と、かえってこられないんだって
あるところに絵本が大好きな女の子がいました。
絵本の中の可愛い世界や素敵な魔法は、いつも女の子の憧れでした。
そしていつしか彼女は「自分もそんな物語を書いてみたい」そう思うようになったのです。
必死で物語を作りました。もちろん絵も描いて、
だけどみんなは彼女を笑いました。
「もう子供じゃないんだから」「夢を見るのはやめなさい」
「また時間を無駄にして」「こんなもの作ってどうするの?」
女の子の夢や憧れを詰め込んだ作品はびりびりに破かれてゴミのように捨てられてしまいました。
そんな時に彼女が耳にしたのがこのサンクチュアリの噂だったのです。
「お願い、私を…サンクチュアリへ連れて行って」
女の子は布団をかぶり、ぎゅっと瞳を閉じました。
それが、この世界の最後でした
気が付くと女の子は、見知らぬ場所に立っていました。それもなぜか見知らぬ少女の手を取って。
「ようこそ、サンクチュアリはあなたを歓迎します。」
視界の隅でゆっくりに見えていた噴水のしぶきが、急に時間が動き出したように一気に落下していきます。呆然と背後を振り返ると、立派な石造りの館がそびえ立っていました。
「サンクチュアリ…?」
ぼんやりと呟いた女の子の表情がゆっくりと驚きに変わりました。
(あのうわさ……本当だったの…?)
だけどとても信じられません。きっと夢を見ているんだと思いました。女の子は目の前の少女に再び視線を戻しました。
銀色の髪に印象的な赤い瞳。整いすぎた容姿と現実離れした雰囲気はまるで人形のよう。やはりこれは夢だと確信しかかった時、少女がぽつりと口を開きました。
「戸惑うのも無理はありません。覚えていないでしょうが、あなたは私の問いかけに応えてここへ来ることを選んだのです。」
少女はおもむろに繋いだ手を高く掲げました。すると二人の間の空間が輝きだし、一冊の本が現れたではありませんか。ふわふわと浮かんだまま胸に飛び込んできた本を、女の子は驚く暇もなく受け止めました。
「それはあなたの物語。あなたのこれからは全て、そこに自動的に記録されていきます。」
女の子は本のページをパラパラとめくってみました。全部白紙だ、と思った瞬間、最初のページに絵が浮かび上がりました。それはまさに今この瞬間、彼女が本をめくっている光景でした。
「その本はどうか丁重に扱ってください。ここではなにより大切なものです。」
女の子は本の表紙に何か文字が書いてあることに気が付きました。見たこともない言語でしたが、不思議と書いてあることがわかります。
「た…ん…ぽぽ……
少女はこくりと頷きました。
「それがここでのあなたの名前です。それでは庭園を案内しましょう、
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