直観は信じてみてもいいものなのか
つかさ
第1話
直観とはその人の知識や経験に基づいた認識のことだという。「なんとなく」とか「ひらめいた」という言葉を使うときは直観によるものが多い。瞬間的に物事の本質を見ること、ということでもあるが、それが当たっていることもあれば間違っていることだってある。だから、深くは気にしないでほしい。
これは、ある夜に仲の良い友人宅で集まったときの話。
「あのさ。どうして俺たちって友達になったんだと思う?」
からっぽになったビール缶をテーブルに置いた卓也がふとそんな話を切り出した。
「ほら、あの時高校の教室でお前が健斗とゲームの話をしててさ。そうしたら横にいた幸平が『俺もそれやってる』って会話に入ってきて」
「あぁ、思い出した!で、卓也が『あのゲーム4人でやると楽しいんだよな』って言って、健斗がちょうど俺の後ろの席にいた勇樹に『このゲーム知ってる?』って聞いたんだよな」
そのゲームをやっていた勇樹が話に乗り始めて、そこから4人で遊ぶようになって、大学生になっても社会人になってもこうして4人の付き合いは続いていった。
「あのゲームってさ。俺たちが中学くらいに流行ったゲームで、もうやってるやつなんていないだろうなーって思ってたのに、近くの席に4人もやってるやつが集まっていたなんて、面白い偶然だよな」
「でもさ。健斗はなんで勇樹に話しかけたんだよ?お前たち一度も話したことなかったじゃん」
「うーん……なんとなく?」
「おいおい、なんだよ。それ」
「あー、こいつなら知ってそうだなぁって思ったんだよな」
「直観ってやつ?すげーじゃん」
幸平に褒められた健斗はまんざらでもない感じだ。だけど、それが気恥ずかしくなったのか残っていたビールを一気に飲み干した。
そんな健斗を見て、思わずくすりと笑ってしまう。
「あの時、漫画読んでたの覚えてる?」
「えっと、そういえば読んでいたような……。あぁ、そうだ!たしか、俺も持ってたんだ、その漫画」
「あぁ、俺も思い出した!あの後、勇樹と貸し借りもしてたな、あの漫画。結構グロいシーンもあったから、あれ読んでたのかーってビックリしたよ」
「面白くて今でもたまに読み返してるよ」
実は体育の時間に健斗と卓也があの漫画の話をしているのを聞いていた。それで自分も読もうと思った。
「もしかして、勇樹があの漫画を読んでいたから話しかけたんじゃないのか?」
「そうかもしれないな。少なくとも趣味合いそうなやつ、とは思ったかもしれない」
「なぁ。そういえば、あの漫画の主人公って健斗になんとなく雰囲気似てない?」
はっと思いついたように幸平が話を切り出す。
「なんだよ。お前までなんとなくって」
卓也のツッコミに幸平が「うーん」と唸って、おもむろに手を口元に当てて考え込む。
「説明しろって言われると難しいんだけど、雰囲気が似てるというか……」
「友情に厚いところとか、実は熱血なところとかじゃない?」
「あぁ、それあるな。健斗、俺が仕事で悩んでいたときかなり相談に乗ってくれた」
「それだ。俺も高校の先輩に振られたとき励ましてくれた」
「なんだよ、幸平。お前振られてたのかよ。自分から振ったって話していたくせに」
「悪かったな。見栄だよ、見栄」
「へぇ……そんなこともあったんだ」
「外も中身もイケメンでモテそうなのに、俺たちと一緒で独り身なんてな」
またしても照れる健斗。「もう、勘弁してくれよ」なんて言っているけど、やっぱり顔はにやけている。
「あー、ダメだ。酔って熱くなってきたわ。ちょっと外出てくる」
慣れないヨイショを受けた健斗がついに逃げ出した。
しばらく、健斗抜きで雑談が続く。
「あいつ、結構酔ってるよな……。大丈夫かな」
「……ちょっと見てくるよ」
玄関から外に出ると、健斗は扉に背を向けて夜空をぼんやりと眺めていた。
「勇樹か?」
「よくわかったね」
「あぁ……なんとなく」
さすが、健斗だ。
「あのさ。健斗。前々から言おうと思っていたことがあるんだ」
「急に改まってどうしたんだ」
ふぅ、と息の固まりを一つ吐く。
「私と……付き合ってくれないか」
君は、名前も容姿も男っぽくてガサツで趣味も周りの子と違うから、女の子の輪が苦手で一人寂しかった私に、勇気を持って話しかけてくれた。
そんな君は私の直観どおり、優しくて情に厚い人だったんだ。
だから、私は直観的に君のことを好きになったんだ。そして、それは今も。
直観なんて案外アテになるもんじゃない。知識や経験に基づいて、合理的・分析的に、なんて言うけれど、それがどこから、誰によって得られたものかもわからない。
まぁ、直観なんだからもし間違っていても気にしないでほしい。
なんとなく、そう思った。
直観は信じてみてもいいものなのか つかさ @tsukasa_fth
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