おまけ 青春ってなんだろうね?

 夏休みに入ってすぐの日。

 まだ俺が舞花と交際する前の事だ。

 その日は文化祭の片付けをするべく、文芸部が集まるのだった。


 部室までやってくると、まだ鍵がかかっていた。まだ誰もきていないのだ。

 部室棟を出て、本校舎に入る。すぐ手前に事務室があって、ドアをノックしてから入室する。


「失礼します。文芸部の石宮です」

「あらおはよう、石宮君」


今日は三島先生が担当らしい。


「部室の鍵でしょ? ほら、どうぞ」

「ありがとうございます」


と俺に鍵を手渡して


「文芸部に入ってくれて、本当にありがとうね」


 礼なんか言われる筋合いはない。だから俺は代わりにこう言った。


「……なんか嬉しそうっすね」

「廃部寸前だったのに、文芸部がちゃんと存在してるのが嬉しいのよ。今度OBでも誘ってみようかしら」

「皆んな喜ぶと思いますよ」

「頑張ってね」

「ありがとうございます」


 そんな軽い会話をしてから、「失礼しました」とお辞儀をして事務室を後にする。


 部室の前まで戻ってくると冬原が待っていた。


「おはよう、石宮君」

「おはよう、冬原。待たせたか?」

「いえ、丁度来たところよ。鍵、取ってきてくれたのね? ありがとう」

「良いんだ」


 鍵を開け、部屋に入る。

 先週文化祭が終わったばかりと言うのに、看板だとか諸々に哀愁を感じる。


「うわ、蒸すわね」

「さっさとエアコンを付けよう」


 ピッと壁掛けのスイッチを押すと、ブォーと音を立てて冷たい風が出てきた。

 リラックスしたのか、冬原は机に突っ伏して腕を伸ばした。


「気持ちいいわね」

「暑いのは苦手なのか?」

「ええ、暑いのは無理。私、智"雪"だから暑いと溶けちゃうのよ」


と彼女は冗談を言う。思わず笑ってしまう。


「なんだよそれ」

「……ねえ、石宮君」

「何だ?」

「青春ってなんだろうね?」


 冬原は顔だけを此方に向けて、囁くように言った。


「青春てのは人生を四季に例えた時の春に該当する言葉だ。青春、朱夏、白秋、玄冬といった具合にね」

「へえ、そんな事をどうやって知ったの?」

「うーん、思い出せんな」

「そう……ところで、私はそんな回答を求めて質問したのではないのだけれど」

「じゃあ、どんな答えが欲しかったんだ?」


と聞くと、


「……忘れたわ」

「そっか」


俺と冬原はクスクスと笑った。

 すると丁度そこへ


「おはよう、二人とも!」

「やあ、おはよう」


と桜木と遠野が入ってきた。

 さあ、今日も活動が始まる。

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