第二章

遠野譲治の螺旋的な恋路

第1話 遠野譲治のトラウマ


 冬原さんに出会うまで、僕は女性恐怖症を患っていた。いや、まだ何処かで怯えている節はあるかもしれない。

 誠司にはこの理由を話していないから、彼は僕を理解できないようだ。女の子が怖いなんて感覚、普通のヘテロセクシュアルには分からないんだろうね。



 僕が初めて女の子を好きになったのは小学校の頃だった。相手は鶴見というクラスで人気者な女の子。

 ああ、先に言っておかなきゃね。

 当時の僕も決して人気者ではなかった。どちらかと言うと、教室の隅で生き物係の飼育をやったり図書委員で本読んだりするタイプだった。


 鶴見さんは同じクラスの女の子で、不思議とよく隣の席になったものだった。

 鶴見さんは明るい性格でケラケラとよく笑う。そんな明るさに釣られて周りの人間も笑う。

 彼女はそんな素敵な力を持っていた。僕はそれが魅力的に思えた。



 さて、僕は彼女に気持ちを伝えたくなった。ダムが今にも決壊する様な感じで、ラブレターを感情が溢れる限り綴った。

 今思えば、少し下品な表現だけど、童貞臭い文だったと思う。思わず笑ってしまうくらい。


 閑話休題。


 ラブレターを渡した当日は、いつもと同じような平和な日だった。

 給食の時間に僕は思い切って鶴見さんにラブレターを渡した。


「これ、読んで」

「え? なになにー?」

「か、帰ってから一人で読んで欲しい」


 当時の記憶はあんまり定かではないけれど、鶴見さんはあまり良い気はしていなかったと思う。

 どこか引きつった愛想笑いをしていた……と思う。


 さて、その後が問題だ。

 翌朝僕が登校すると、真っ先に


「あんた、マジキモいよ」


と一人のクラスの女子に真っ向から言われた。

 あらかじめ言っておくが、その子は正義感が強いタイプの子で、あの日も悪気はなかったんだと思う。


「え? なんのこと?」


目が点になった僕にその女は


「あんたのラブレター、最悪。鶴見が嫌がってたよ」

「へ?」

「やめて。あの子はあんたなんかどうでも良いの」


 驚いた僕は鶴見さんの方を見た。彼女は取り巻き達と一緒に僕を指差して、クスクスと馬鹿にしたような忍び笑いをしていた。


——ラブレターを回し読みしたんだ!


 この経験はあまりにも強烈で、四年経った今でも思い出すだけで震え出すほどだ。


 女の子は怖い。

 僕を笑い物にして、僕の心を容赦なく破壊する。



 あの日から僕は女が嫌いになった!!!

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