第3話 失恋は連鎖する。甲

 唐突ではあるが、僕は春の体育祭で骨折した。恥ずかしい事に単なる四百メートル走で転び、足首を折ってしまったのだ。


 本当なら活躍して、冬原さんに認められたかった。

 認められれば告白の成功率が上がるんじゃないかなって、今思えば安直な発想。


 しかし現実は違った。

 夕日の照らす放課後の教室で冬原さんに告白する代わりに、僕は病院で手当てを受けていた。女の看護師さんが僕を優しく手当てしてくれて、弱い自分を見せてる気がして気恥ずかしかった。

 幸いにしてその日のうちに帰っても良いと言われた。ただし、足を包帯でぐるぐる巻きにしなくてはならなかったが……



 体育祭の翌日、僕は松葉杖をついて登校した。教室に入るなり、沢山のクラスメイトが僕を心配してくれた。

 席に着くとクラス委員長がやってきて


「その足、大丈夫?」


と他の人と同じ様に心配をしてくれた。


「完治までには二ヶ月ほどかかるって言われたよ」

「うわぁ、それは気の毒だね」


と端正な顔に皺を浮かべた。


 ついでながらここで述べさせて欲しい。

 彼女、天野美月は明るい髪色の可愛らしい女の子で、クラス委員長を勤めている。

 彼女は随分と積極的に僕に話しかけて来たので、女性恐怖症が酷かった入学当初から話す事があった。


「そう言えば遠野君、カッコよくなったよね」

「え? そうかな?」

「うん、凄くいいと思うよ」


と胸元でギュッと両手を握る。


 別に僕は君に評価されても嬉しくないんだよなぁ……


「そういえば天野さん」


 僕は話題を逸らしたくて切り出した。


「何かな?」

「文化祭のお化け役、これじゃ出来そうにないよ。ごめんね」

「うーん。でも、せっかく遠野君が進んで引き受けてくれたわけだし、私としてはやめて欲しくないな。あ、でも遠野君の身体の方が大切だよね……?」

「ハハ、やっても良いならやりたいけどさ。皆んなに迷惑掛けたくはないんだよ」

「そっか……。そしたら役割を組み直すから、またその時に話そうね!」

「うん、頼むよ」



 数日後の事。

 相変わらず足は折れたままで、文芸部部活は部室棟三階にあって登るのはしんどかった。

 途中、誠司が


「お、遠野。大丈夫か?」


と手伝ってくれなかったらもっと大変だったろう。


 部室に着くと、すでに冬原さんと桜木さんがいた。冷房の効いた部屋で、贅沢にも二人は紅茶を飲んでいた。


「よ、皆んな」


と誠司が先にドアを開けて、


「やあ、こんにちは」


と僕はいつもの様に笑って入った。


「相変わらず痛々しいねー。階段登るの大変じゃない?」


桜木さんは眉をハの字にして言った。


「へへ、もう慣れちゃったよ」


と笑いかける。


「本当に骨折してしまったのね……お気の毒に」


冬原さんも心配そうにしてくれる。


「ところで、文集の方はどうかな?」


と誠司が言うと、


「届いてるよー!」


と桜木さんが元気に段ボール箱を引っ張り出して見せてくれた。

 中にはギッシリと文集が詰まっている。


「全部で50部。去年と同じ数だけど、売れ残ったらやだなー」

「平気よ。少なくとも私の作品は面白いから」


 冬原さんはキリッと頰角を上げて笑う。

 可愛い。


「ねえ、二人とも。早速だけど、文化祭の売り子のシフト分け、しちゃおうよ!」

「そうね。早いうちに決めておけば、クラスでのシフトと被らなくて済むようになるわ」

「そうだな、さっさとやろうぜ」

「僕、板書やるよ」

「良いよ、俺がやる。お前は座ってろ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る