第3話 失恋は連鎖する。甲
唐突ではあるが、僕は春の体育祭で骨折した。恥ずかしい事に単なる四百メートル走で転び、足首を折ってしまったのだ。
本当なら活躍して、冬原さんに認められたかった。
認められれば告白の成功率が上がるんじゃないかなって、今思えば安直な発想。
しかし現実は違った。
夕日の照らす放課後の教室で冬原さんに告白する代わりに、僕は病院で手当てを受けていた。女の看護師さんが僕を優しく手当てしてくれて、弱い自分を見せてる気がして気恥ずかしかった。
幸いにしてその日のうちに帰っても良いと言われた。ただし、足を包帯でぐるぐる巻きにしなくてはならなかったが……
♢
体育祭の翌日、僕は松葉杖をついて登校した。教室に入るなり、沢山のクラスメイトが僕を心配してくれた。
席に着くとクラス委員長がやってきて
「その足、大丈夫?」
と他の人と同じ様に心配をしてくれた。
「完治までには二ヶ月ほどかかるって言われたよ」
「うわぁ、それは気の毒だね」
と端正な顔に皺を浮かべた。
ついでながらここで述べさせて欲しい。
彼女、天野美月は明るい髪色の可愛らしい女の子で、クラス委員長を勤めている。
彼女は随分と積極的に僕に話しかけて来たので、女性恐怖症が酷かった入学当初から話す事があった。
「そう言えば遠野君、カッコよくなったよね」
「え? そうかな?」
「うん、凄くいいと思うよ」
と胸元でギュッと両手を握る。
別に僕は君に評価されても嬉しくないんだよなぁ……
「そういえば天野さん」
僕は話題を逸らしたくて切り出した。
「何かな?」
「文化祭のお化け役、これじゃ出来そうにないよ。ごめんね」
「うーん。でも、せっかく遠野君が進んで引き受けてくれたわけだし、私としてはやめて欲しくないな。あ、でも遠野君の身体の方が大切だよね……?」
「ハハ、やっても良いならやりたいけどさ。皆んなに迷惑掛けたくはないんだよ」
「そっか……。そしたら役割を組み直すから、またその時に話そうね!」
「うん、頼むよ」
♢
数日後の事。
相変わらず足は折れたままで、文芸部部活は部室棟三階にあって登るのはしんどかった。
途中、誠司が
「お、遠野。大丈夫か?」
と手伝ってくれなかったらもっと大変だったろう。
部室に着くと、すでに冬原さんと桜木さんがいた。冷房の効いた部屋で、贅沢にも二人は紅茶を飲んでいた。
「よ、皆んな」
と誠司が先にドアを開けて、
「やあ、こんにちは」
と僕はいつもの様に笑って入った。
「相変わらず痛々しいねー。階段登るの大変じゃない?」
桜木さんは眉をハの字にして言った。
「へへ、もう慣れちゃったよ」
と笑いかける。
「本当に骨折してしまったのね……お気の毒に」
冬原さんも心配そうにしてくれる。
「ところで、文集の方はどうかな?」
と誠司が言うと、
「届いてるよー!」
と桜木さんが元気に段ボール箱を引っ張り出して見せてくれた。
中にはギッシリと文集が詰まっている。
「全部で50部。去年と同じ数だけど、売れ残ったらやだなー」
「平気よ。少なくとも私の作品は面白いから」
冬原さんはキリッと頰角を上げて笑う。
可愛い。
「ねえ、二人とも。早速だけど、文化祭の売り子のシフト分け、しちゃおうよ!」
「そうね。早いうちに決めておけば、クラスでのシフトと被らなくて済むようになるわ」
「そうだな、さっさとやろうぜ」
「僕、板書やるよ」
「良いよ、俺がやる。お前は座ってろ」
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