第4話 失恋は連鎖する。乙
冬原さんに告白したのはいつだったかな……?
多分、文化祭が終わった辺りだったと思うな。
文化祭の日の放課後。その日は無事に終わって、クラスは打ち上げムードになった。
先生が帰ったと言うのに、教室には生徒がまだ沢山残っている。
「ねぇねぇ」
と僕に声をかけてきたのはクラス委員長の天野さん。
「ジョーカーの役、よかったよ」
「足折れちゃってても、あんな感じの役割なら出来るって発想を作ってくれた天野さんのおかげだよ」
「えへへー。……ところでさ、この後空いてる? 良かったら打ち上げに行かない? 一緒に色々話したいな」
「いや、ごめん。この後文芸部に顔を出さないと行けないんだ」
「そっか。残念」
「ごめんね、またの機会にお願い」
「うん、任せて!」
♢
天野さんの誘いを断ってまで、僕は文芸部の部室に行かなくてはならなかった。
いしみーや『冬原を呼びつけてある』
いしみーや『あとはお前次第だ』
Tohno『ありがとう☺︎』
いしみーや『頑張れよ。応援してるぜ』
それは僕が冬原さんに告白をする為。
僕の言葉で……いや、言葉だけじゃなくてあらゆるもので、僕は彼女に気持ちを伝えたい。
部室棟三階。普段使い慣れている階段だが、夕陽で赤く染まっているのと人が居ないのが相まって、何か重大な事のように思われた。永遠に忘れない光景になるだろう。
僕は片足を引き摺りながら、一段一段丁寧に登る。
部室の前に着いた。
扉からは明かりが溢れている。
ガチャ。
半袖ワイシャツにベストを着た冬原さんが座っていた。白い腕がどこか寒々しい。エアコンがキツいからだろうか……?
「あら、遠野君ひとり?」
「そうだよ。冬原さんこそ一人?」
「ええ、そうなの」
と、なぜか悲しそうに言う。
「何してたの?」
「本を読んでいたのよ」
「そっか」
ふと、彼女は永遠にここにいるのではないかと思った。
何年も前から何年も先まで、彼女はここで本を読み続けるのではないだろうか?
そんなはずはないのにね。
僕が冬原さんの向かいに座ると少しして、彼女はもどかしそうに言った。
「あの、遠野君。その……石宮君って今どこにいるのかしら?」
その顔には不安が浮かんでいた。
そうか、きっと彼女は石宮が好きなんだ……!
ふと、考えるだけでも辛い発想が火花を散らすように浮かんだ。
僕はそれを必死に振り払って
「今日、彼は来ないよ」
「え?」
おもむろに僕は彼女の目を見ながら席を立ち上がる。
いつも大人っぽい冬原さんが、今は子供のように怯えた目で僕を見つめてきた。
「来ないって、どう言うこと? 彼、私を呼び出したのよ?」
「呼び出したのは僕なんだ。誠司は僕に協力してくれただけ」
「そうなの……それで、一体何のために?」
「それはね、冬原さん。僕が君に……」
冬原さんは僕の目をじっと見つめている。
僕は深呼吸一つしてから、歌手が歌うように発声に最大の気を使って
「僕はあなたの事が好きです」
「……それで? あなたは私をどうしたいの?」
冬原さんの目から光が消えたような気がした。
「いや、それだけだよ。冬原さん、僕は自分の気持ちを伝えたかっただけなんだ」
じっと心が潤むような気がした。
「冬原さん、僕は君が好きなんだ。冬原さんを見ると、頑張らなきゃなって思えるんだよ」
「どうして?」
「さあ、どうしてだろうね?」
冬原さんの目に光が戻った気がした。
「でも、僕は冬原さんのお陰で頑張れるんだよ。君と出会った事で、僕は毎日が充実しているんだ! 僕の青春は貴方と出会った事ではじまったんだよ」
「……そう……」
「はは、興味ないよね。ごめんね、時間取っちゃって」
「いえ、違うのよ。その……なんて言うか……」
冬原さんの顔が歪んだ。
「貴方が泣いてるから……」
「え?」
冬原さんが歪んだのではない、僕が泣いていたんだ。
「その、ありがとう。嬉しいわ、遠野君にそう言ってもらえて」
冬原さんは立ち上がって、僕の目元を人差し指で優しく拭った。
「ごめんなさいね。私は貴方と付き合えないの」
「分かってるよ。誠司が好きなんだろう?」
彼女の頰がポッと赤く染まる。——図星だ!
「誰にも言わないでちょうだいね?」
「もちろんさ。ナイショにするよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます